発表

3B-058

マスク下の先頭音プライミング効果は語長に規定されるか

[責任発表者] 吉原 将大:1
1:早稲田大学文学学術院

目 的
 音読や命名といった,音韻符号化プロセスに関する研究においては,語の先頭音を操作することによる効果が多数報告されてきた。たとえばForster & Davis (1991)は,英語を用いたマスク下プライミング音読課題において,プライムとターゲットの先頭音が同じである場合,異なる場合よりも音読反応潜時が短くなることを示した(e.g., save – SINK < have – SINK)。
 日本語における同様の現象は,主にカナ表記語を用いた実験によって検討され,プライムとターゲットが先頭1モーラを共有する場合に観察されると考えられてきた(e.g., Verdonschot et al., 2011)。しかし近年,漢字表記語に対しては先頭モーラではなく,先頭漢字の読み全体がプライム-ターゲット間で共有される場合にのみ,有意な先頭音プライミング効果が観察されることが示された(e.g., Yoshihara et al., 2017)。これらの結果は,語の文字表記が音韻符号化プロセスに影響することを示唆するものである。
 ただし,Verdonschot & Kinoshita (2018)は,Stroop課題を用いて,先頭1モーラの共有による促進効果が漢字刺激に観察されることを示した。たとえば,「蜜」という漢字が緑色で提示された場合,漢字と色名は先頭1モーラを共有するが(i.e., /mi/),全体の読みは異なる。にもかかわらず,同じ漢字が赤色で提示された場合よりも,色の命名潜時は有意に短かった。このことは,漢字の読み全体の共有による先頭音プライミング効果が,音読課題に特有のものである可能性を示している。
 さらに,先頭1モーラの共有による効果が観察されたStroop課題においては漢字一字が刺激に用いられたのに対して,先頭漢字の読み全体の共有による効果が観察されたマスク下プライミング手法による実験においては漢字二字熟語が用いられている。このことから,Verdonschot & Kinoshita (2017)は漢字刺激の語長が先頭音プライミング効果のパターンに影響する可能性についても指摘した。
 しかし,彼らの主張に反して,漢字の読み全体の共有による先頭音プライミング効果は,音読以外の課題にも観察されることが明らかになってきた。たとえば,写真や線画の呼称を求める命名課題を用いた実験においても,漢字刺激に対しては先頭1モーラではなく,先頭漢字の読み全体がプライム-ターゲット間で共有される場合にのみ,有意なマスク下先頭音プライミングが観察された(Yoshihara et al., under review)。
 本研究では,Verdonschot & Kinoshita (2018)の指摘のうち,漢字刺激の語長が先頭音プライミング効果に影響する可能性について検証した。すなわち,命名課題において一文字で表記される漢字語を刺激に用いた場合,(漢字二字熟語を用いた場合とは異なり)先頭1モーラの共有による先頭音プライミング効果が観察されるか検討した。
方 法
実験参加者:早稲田大学に在籍する28名の学生が参加した。
刺激:まず,Tamaoka et al. (2017)の漢字データベースから,28個の漢字を選択した。次に,各漢字に対応する写真をGoogle画像検索により選択し,ターゲットとして使用した。それぞれのターゲット(e.g., 蜜)について,先頭モーラが同じ関連ありプライムと(e.g., 未),先頭モーラが異なる関連なしプライム(e.g., 弥)を,各1語ずつ選定した。それぞれのターゲットとプライムを組み合わせ,計56ペアを作成した。
手続き:各試行では,実験参加者の前方約50cmの位置にあるCRT画面中央に刺激が提示された。各試行では,先行マスク刺激(######)が500ms間提示された後に,プライムが33ms間提示され,直ちにターゲットに置き換えられた。
 実験参加者には刺激提示の詳細を告げずに,提示されるターゲットをできるだけ迅速かつ正確にマイクに向かって命名するよう教示した。ターゲット提示から命名反応までの反応時間は,試行毎にPCにより自動的に記録された。各ターゲットは2回ずつ提示され,実験参加者は全56ペアに対する命名反応を求められた。なお,各ペアの提示順序についてはカウンターバランスを取った。

結 果
 分析に先立ち,Check Vocal(Protopapas, 2007)を用いて反応の正誤の確認と,反応時間の修正を行った。続いて,音韻関連性(関連あり,関連なし)とターゲット提示回数(1回,2回)を固定要因,実験参加者とターゲットを変動要因とし,Linear Mixed Effects Modelingによる分析を行った。
 反応時間の分析においては,関連ありペアに対する反応時間と(612 ms),関連なしペアに対する反応時間の間に(610 ms),有意な差は見られなかった(t < 1)。また,音韻関連性と提示回数の交互作用も有意でなかった(t < 1.4)。なお,ターゲットが1回目に提示されたときの反応時間は(622 ms),2回目に提示されたときよりも有意に短かった(600 ms, t = 4.74)。誤反応率の分析においては,有意な効果は見られなかった(allts < 1.3)。

考 察
 漢字一字を刺激に用いた場合にも,漢字二字熟語を用いた先行研究と同様,先頭1モーラの共有による先頭音プライミング効果は観察されなかった。この結果は,漢字の読み全体の共有による先頭音プライミング効果が,語長には依存していないことを示している。

謝辞
 本研究の一部は,JSPS科研費JP18H05816の助成を受けたものです。

キーワード
プライミング効果/語長/命名課題


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