発表

3A-062

文理解における視点取得と主体感との関係

[責任発表者] 新国 佳祐:1
[連名発表者・登壇者] 里 麻奈美#:2
1:新潟青陵大学, 2:沖縄国際大学

 文理解において,文中に示される事象が「行為者」視点(図1a)から心内に表象されるか,事象の「観察者」視点(図1b)から表象されるかが,文の主語となる(代)名詞の種類によって異なることが指摘されている(Brunye et al., 2009)。しかし,日本語では,例えば「いま,りんごを切っているところです」のように,しばしば文中の主語が省略される。このような文を理解する際,話者は特定の視点の取得を行わないことが明らかにされている(Sato & Bergen, 2013)。一方,主語省略文の理解においてどの視点を取得するかには個人差が存在する可能性もある。本研究ではそのような個人差を予測すると考えられる要因として主体感(sense of agency:自身の運動と,それによって起こる外的事象を自身がコントールしているという感覚,Haggard, 2017)に着目し,文理解中の視点取得との関係を実験的に検討する。
方法
参加者 日本語を母語とする大学生35名が実験に参加した。
材料 「いま,りんごを切っているところです」のような主語省略文24文を用意した。また,それぞれの文に対して,その文が表す動作の(i)行為者視点からの写真(図1a)および(ii)観察者視点からの写真(図1b)を用意した。以上のターゲットの刺激セットの他に,フィラーの刺激セットを24セット用意した。フィラーの刺激セットでは,ターゲットと同様の主語省略文と,文が表す動作とは一致していない写真(行為者視点,観察者視点同数)がペアにされた。
手続き 参加者は,刺激文が3秒間視覚呈示された後,1.5秒間の注視点に続いて画面に表示される写真に対して,その写真の表す動作が文の意味内容と一致しているかどうかを判断しキー押し反応を行う課題を遂行した(cf. Sato & Bergen, 2013)。この課題では,写真の視点(行為者/観察者)にかかわらず,ターゲット試行では「一致」反応が,フィラー試行では「不一致」反応がそれぞれ一貫して正反応となる。分析にはターゲット刺激への反応時間を用い,行為者(観察者)視点条件での反応時間が短いほど文理解において行為者(観察者)側の視点取得がなされたものとみなした。
主体感の測定 主体感の高低の個人差を測定する課題として,intentional binding(IB)課題(cf. Haggard, 2017)を用いた。手続きはvan der Westhuizen et al. (2017)に準じ,分析にはaction binding(AB)値およびtone binding(TB)値を用いた。これらはいずれも,値が大きいほどその個人の持つ主体感が強いものとみなされる。
結果
 ターゲット試行における刺激写真への反応時間を従属変数として,(i)写真の視点(行為者/観察者)および(ii)IB課題におけるTB値またはAB値を固定効果(交互作用項あり)とする線形混合効果モデル分析を行った。ランダム効果は参加者および刺激セットであった。その結果,AB値を固定効果とした場合に,写真の視点✕AB値の交互作用が有意であった(β = -29.3, SE = 14.4, t = -2.04, p = .042)。図2に,最終モデルのパラメタから計算されたAB値の高低(±SD)と視点条件ごとの反応時間の平均値を示す。一方で,TB値を固定効果とするモデルにおいては,写真の視点✕TB値の交互作用は有意ではなかった。
考察
 実験の結果,図2から分かるように,主体感の高低によって視点取得の選好性が異なることが示唆された。具体的には,AB値が高い,すなわち主体感の強い話者は,写真の視点によって反応時間はさほど変わらず,Sato & Bergen (2013)の主張するように,主語省略文理解において特定の視点取得は行っていないことが推察される。一方で,AB値が低い,すなわち主体感の弱い話者は,行為者視点条件よりも観察者視点条件での反応時間が明らかに短いことから,主語が明示されていない場合は他者の行為として事象を理解する傾向があると考えられる。「自分が行動の主体である」という感覚(主体感)の強さが,言語情報のメンタルシュミレーションの過程にも影響を及ぼすことが示された。(本研究はJSPS科研費JP16H05939,JP17K13438,JP19H01263の助成を受けた)
主な引用文献:Haggard, P. (2017). Nature Reviews, 18, 197–208. / Sato, M., & Bergen, B. K. (2013). Cognition, 127, 361–374. / van der Westhuizen et al. (2017). Consciousness and Cognition, 56, 58–67.

キーワード
文理解/視点取得/主体感


詳細検索