発表

2C-046

リスク選択の選好逆転と制御焦点傾向の関連

[責任発表者] 佐々木 宏之:1
[連名発表者・登壇者] 越智 雄大#:1, 林 洋一郎:2
1:新潟国際情報大学, 2:慶應義塾大学

 不確実状況下の意思決定は,損失場面でリスク志向的になり,獲得場面でリスク回避的になる。期待値(の絶対値)が等価にも関わらず獲得と損失の間で生じるこのような選好逆転(preference reversal)は,規範的な経済合理性からは逸脱している。Kahneman & Tversky (1979)はこうしたパラドクスに注目し,不確実状況下で行われる選択が論理的というよりは直感的なプロセスに支えられることを示した。ヒューリスティクスに代表される直感的な意思決定は,判断の合理性を犠牲にする一方で迅速な判断を可能にする。
 これに対し,Higginsらは動機づけの観点からリスク選択の逆転現象を検討した(Scholer et al., 2010; Zou et al., 2014)。株式投資を模した実験において,ポジティブな結果の達成を目指す促進焦点(promotion focus)は,獲得が未達成の状況でリスク志向になり,ネガティブな結果の予防を目指す予防焦点(prevention focus)は,損失を回避する状況でリスク志向になった。つまり証券取引に当てはめると,促進焦点は利益確定を目指してリスク志向に働き,予防焦点は損切り回避を目指してリスク志向に働くことを示唆する。
目 的 Higginsらの研究では,損失条件と獲得条件の違いはリスク選択時の資金がマイナスかプラスかにより操作され,どちらの条件もリスク選択の目標自体は獲得(期待値はプラス)することにあった。本研究はKahneman & Tverstky (1979)が用いたリスク選択課題を用いて,損失(期待値はマイナス)と獲得(期待値はプラス)のリスク選択の比較から,制御焦点傾向が獲得/損失の選好逆転にどう関連するか検討する。
 実験課題はアイオワ・ギャンブリング課題を応用した反復意思決定課題(Sasaki & Kanachi, 2005)である。この課題では,選択毎に結果がフィードバックされ,また選択の変更も可能なので,選好の推移も調べることができるという特長をもつ。さらに本研究では,リスク選択の反応時間も併せて測定し,獲得/損失条件と制御焦点傾向の影響を検討する。
方 法参加者:大学生61名(男性40名,女性21名)が参加した。
課題: パソコン画面にABCDのカードが提示された。ABの選択はリスク回避(80%200円,10%150円,10%250円),CDの選択はリスク志向(80%0円,20%1000円)だった。マウス操作でカードを選択すると,カードがめくられ金額が提示された。試行回数と累積金額は画面下方に提示された。これを50回繰り返し,参加者はなるべく多く獲得するように,あるいは損失を少なくするよう求められた。獲得条件と損失条件の順序はカウンターバランスがとられた。
尺度:学生の制御焦点傾向の測定には,Higgins版RFQ尺度(促進焦点6項目,予防焦点5項目)を使用した。RFQは7件法で測定した。促進焦点/予防焦点尺度得点の差分を中央値で二群に分け,促進焦点群,予防焦点群とした。
実験計画:獲得/損失条件と課題ブロック(第1試行と最終試行を除く48試行を3分割)は被験者内要因,制御焦点傾向(促進焦点/予防焦点)は被験者間要因の混合計画である。
結果と考察 リスク選択については,リスク志向(CD選択)とリスク回避(AB選択)の差分を従属変数として,得失×ブロック×制御焦点の3要因分散分析を行った(Fig.1)。獲得/損失条件(F(1, 59)= 98.43, p<.01)とブロック(F(2, 118)= 6.01, p<.01)に主効果,制御焦点と獲得/損失条件に交互作用(F(1, 59)= 8.21, p<.01)が見られた。促進焦点は獲得条件で,予防焦点は損失条件でリスク志向になるという結果は,Higginsらが示した制御焦点とリスク選択の関連を支持するものである。
 選択反応時間について,得失×ブロック×制御焦点の3要因分散分析を行ったところ(Fig.2),獲得/損失条件(F(1, 59)= 9.95, p<.01),ブロック(F(2, 118)= 48.09, p<.01),制御焦点(F(1, 59)=4.13, p<.05)に主効果,獲得/損失条件とブロックに交互作用(F(2, 118)= 4.82, p<.05),制御焦点とブロックに交互作用(F(2, 118)= 5.08, p<.05)が見られた。損失条件より獲得条件の反応が早いという結果,予防焦点より促進焦点の反応が早いという結果はそれぞれ先行研究でも確認されている。一方,獲得/損失条件と制御焦点に相互作用がないという結果は,制御焦点による意思決定への影響と獲得/損失の違いによる影響が独立の機序で作用することを示している。

キーワード
制御焦点/リスク選択/選好逆転


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