発表

2C-045

コミュニケーションスキルが抑うつ感情・自尊心に与える影響モデルの検討

[責任発表者] 山口 誠実:1
[連名発表者・登壇者] 安達 圭一郎#:2
1:みのりこころのクリニック, 2:山口大学

問題
現在うつ病の治療法には,薬物治療,休息,心理療法が効果的であることがわかっている(三村,2013)。心理療法について,National Alliance on Mental Illness(2016)は,認知行動療法や対人関係療法などの有効性を示している。我が国では認知行動療法が特に医療現場において一般的に知られているが,対人関係療法(以下,IPT)については,まだまだ認知度は低い。
IPTとは,Klermanらによって創始された科学的根拠を重要視する,アメリカ生まれの短期心理療法である。その名の通り,臨床場面においてクライエントにとって身近で,心理的健康に大きく影響を与える人(=重要な他者)との関係に焦点を置き進めていく。IPTの面接では,うつ病の発症前後で生じた出来事や,それに伴って重要な他者との関係の変化を振り返っていく。このときに用いる手法が,コミュニケーション分析である。実際のやり取りを振り返ることで,うつ病を抱えるクライエントの特徴的なコミュニケーションパターンがわかり,うつ病への正しい理解が進む。結果,うつ病が軽減すると実証されている(水島,2009)。一方で,どういった認知的プロセスを経て,抑うつ感情の軽減に影響しているのかということは,筆者の知るところではいまだ知らない。本研究では,我々が元々持っているIPTで重視するコミュニケーションスキルに注目し,それらが抑うつ感情へどのように影響を与えているのかを明らかにすることを目的とする。

方法
調査対象者 女子大学生87名(有効回答率は53.70%,M=20.48,S.D.=1.22)であった。
材料 フェイスシート(生年月日,年齢,好きなイニシャル),Rumination-reflection Questionnaire 日本語版の4項目(高野・丹野,2008),対他的自己肯定感尺度の22項目(白石,1990),自尊感情尺度の10項目(山本・松井・山成,1962),Self- Depression Scale 日本語版の20項目(福田・小林,1973)を使用した。なお,フェイスシートの好きなイニシャルは,3回を通じて回答者をある程度特定するために設けた。さらに,IPTで重視するコミュニケーションスキルを測るため,筆者が「臨床家のための対人関係療法入門ガイド(水島,2009)」を参照し,23項目を作成した。
手続き 2週間のインターバルを設け3回の質問紙調査を行った。質問紙は,大学の講義時間中に一斉実施法で行った。
倫理的配慮 本研究は,発表者の所属していた研究機関で倫理基準の範囲内で行われた。
実施計画 1回目にTime1の抑うつ尺度(α=.78),IPTで重視するコミュニケーションスキル尺度,反すう尺度(α=.77),2回目に対他的自己肯定感尺度(α=.86),自尊心尺度(α=.91),3回目にTime3(α=.77)の抑うつ尺度を実施した。

結果と考察
1. IPTのコミュニケーションスキル尺度
筆者が作成したIPTのコミュニケーションスキル尺度において変数間で共通する要素を抽出するために,因子分析を行った(主因子法,プロマックス回転)。その結果,5項目からなる第1因子の“コミュニケーションに対する効力感”(α=.74),2項目からなる第2因子の“コミュニケーションのタイミング”(α=.85),3項目からなる第3因子の“コミュニケーションにおけるズレの予防”(α=.71),3項目からなる第4因子の“コミュニケーションの自他境界の明白さ”(α=.68)で構成される,13項目の“IPTにおけるコミュニケーションスキル尺度”(α=.72)が開発された。
2. IPTのコミュニケーションスキルによる影響
IPTで重視するコミュニケーションスキル尺度の合計点および各因子から抑うつ感情への影響モデルの検討を行うために,強制投入法による重回帰分析を行った。IPTで重視するコミュニケーションスキルからは,対他的自己肯定感および自尊心へ正の影響が認められた(⊿R2=.58)。第Ⅰ因子の「コミュニケーションにおける効力感」において,反すうへ負の影響,対他的自己肯定感および自尊心へ正の影響が認められた(⊿R2=.58)。第Ⅱ因子の「コミュニケーションのタイミング」において,反すうへ正の影響が認められた(⊿R2=.58)。第Ⅲ因子の「コミュニケーションにおけるズレの予防」において,Time3の抑うつへ負の影響が認められた(⊿R2=.61)。第Ⅳ因子の「コミュニケーションの自他境界の明白さ」において,自尊心へ正の影響が認められた(⊿R2=.58)。よって,仮説モデルはおおむね支持された。
 以上のことから,IPTで重視するコミュニケーションスキルが,対他的自己肯定感および自尊心の向上を助け,間接的に抑うつ感情を軽減させる効果が認められた。さらに,各因子をモデルに適応させた場合,おおむね仮説を支持する内容であったが,コミュニケーションのタイミングばかりに気を奪われてしまうと,反すうを助長させてしまうということがわかった。このことから,4つの因子が組み合わさることで,IPTで重視するコミュニケーションスキルの効果が発揮されるということが明らかとなった。

キーワード
対人関係療法/コミュニケーション/抑うつ感情


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