発表

2B-059

カタカナ語を用いたマスク下の音韻隣接語プライミング効果

[責任発表者] 楠瀬 悠:1
1:文京学院大学

目 的 語の読みにおいて,提示された語ばかりでなく,その語と形態的に類似している語(形態隣接語)や音韻的に類似している語(音韻隣接語)も活性化することが知られている(e.g., Grainger, Muneaux,Farioli & Ziegler, 2005; 日野・中山・宮村・楠瀬, 2011; 楠瀬・日野, 2018; Yates, 2005)。特に,形態隣接語(e.g., ゴルフ-ウルフ)のペアを用いた,マスク下のプライミングによる語彙判断課題では,形態隣接語ペアの方が関連なしペアよりも反応時間が遅くなることが知られている(e.g., Nakayama, Sears & Lupker, 2011)。この形態隣接語による抑制効果は,プライムとターゲットの語彙表象がともに活性化し,両者の間で競合が起こるために生じると説明されている。
 このことが正しければ,音韻隣接語を用いた場合でも同様の効果が観察される可能性がある。楠瀬・日野(2018)では,カタカナ語と漢字語それぞれの音韻隣接語数を用いた語彙判断課題において,音韻隣接語数の効果を観察している。このことから,提示された語だけでなく,その語の音韻隣接語も活性化しており,視覚的な語の読みにおいて,音韻レベルの処理も介在していることが示唆されている。
 その一方で,音韻レベルの処理が介在するなら,マスク下のプライミングを用いた際,音韻情報の共有によって語の読みが促進される可能性も考えられる。楠瀬・日野・中山(2013)は,同音語を用いたマスク下のプライミングによる語彙判断課題において,同音語ペアに促進効果を観察している。この結果は,プライムによりターゲットの音韻情報が活性化され,関連なしペアよりも判断が速くなったと説明している。音韻隣接語は,元の語から1モーラのみ異なる語のことであり,その音韻情報の多くは共有されていることから,同様の効果が生じる可能性が指摘できる。
 そこで本研究では,カタカナ語を用いたマスク下のプライミングによる語彙判断課題を行い,どちらの仮説が正しいか検討した。さらに本研究では,音韻隣接語単独の効果を検討するために,カタカナ語に対して漢字語の音韻隣接語を用いた。また,形態隣接語を用いた研究では,プライムおよびターゲットの出現頻度も影響することが知られている(e.g., Nakayama et al., 2011)ため,プライムとターゲットの出現頻度についても操作した。
方 法実験参加者 大学生および大学院生56名(M = 20.5歳, SD = 1.4)が実験に参加した。
刺激 ターゲットにはカタカナ語を使用し,そのターゲットに対して国立国語研究所(1993)を使ってモーラ単位の漢字語の音韻隣接語を検索した。漢字語プライムとカタカナターゲットの出現頻度を操作するため,天野・近藤(2003)から,高頻度語として出現頻度が3000以上,低頻度語として3000未

満の語をそれぞれ選択した。それらの語について,ターゲットの出現頻度を高低に操作し,さらに,ターゲットの出現頻度より高い出現頻度を持つプライムと低い出現頻度を持つプライムを操作し,各条件14ペアずつ選択した。このようにして作成された4条件のペアに対して,プライムを組み替えることで関連なし条件を作成した。つまり,本実験刺激は,プライムの出現頻度・ターゲットの出現頻度・関連性の3要因が各2水準ずつの計8条件について,7ペアの刺激が使用された。
 これらの各条件において,文字単語親密度と音声単語親密度については,出現頻度条件に従って差が生じたが,モーラ数・形態隣接語数・音韻隣接語数・形態-音韻間の一貫性・音韻-形態間の一貫性などは統制した。これらの刺激セットに,単語刺激と同数の漢字語プライムとカタカナ非単語を加え,本実験では計112ペアの刺激を使用した。
手続き 語彙判断課題を行った。まず,画面中央にマスク刺激(“######”)が1000ms間提示された後に,同じ位置にプライムが50ms提示され,即座にターゲットに置き換わった。実験参加者には,提示されたカタカナ文字列が単語かどうかをできるだけ迅速かつ正確に判断し,反応ボックス上の語ボタンか非語ボタンを押下するよう教示した。
結 果 と 考 察 各条件における語彙判断課題の平均反応時間をTable1に示す。高頻度ターゲット条件ではプライミング効果は観察されず,低頻度ターゲット条件において,プライムの出現頻度に関わらず,有意なプライミング効果が観察された。この結果は,漢字語プライムの音韻情報が活性化され,カタカナターゲットの読みの判断が速くなったものと思われる。
 低頻度ターゲット条件のみでプライミング効果が観察され,高頻度ターゲット条件で観察されなかったことは,ターゲットを処理するスピードによってプライムの影響が異なるためだと考えられる。楠瀬(2017)は,音韻隣接語を用いた関連性判断課題において,低頻度条件のみに抑制効果を観察しており,この効果はターゲットの処理が遅い低頻度語の場合にのみ,音韻情報が有効に使用されるためだとしている。このことから,本研究の結果は,処理が遅い低頻度ターゲット条件において,漢字語プライムの音韻情報が使用されたことによる可能性が高いものと思われる。

キーワード
音韻隣接語/マスク下のプライミング/カタカナ語


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