発表

1C-058

IPEパラダイムを活用した多面的な理由推理トレーニング

[責任発表者] 三宮 真智子:1
[連名発表者・登壇者] 真下 知子:1,2, 山口 洋介:1
1:大阪大学, 2:京都文教短期大学

問 題
 人がある不可解な行動をとる背景には,実はそれなりの理由があるものだが,多くの場合,一面的な理由の解釈で片付けられがちである。しかし,一面的な解釈を避けなければならない状況というものがある。その1つは,幼い子どもの不可解な行動である。幼児は語彙が乏しく,また自分の気持ちや考えを十分に言語化するスキルも持たないため,自分の行動の理由をうまく説明できない。そのため,周りの大人たちは理由を一方的に決めつけず,様々に推理して対応する必要がある。しかしながら,これはそれほど容易ではない。本報告では,IPE(Idea Post-Exposure)パラダイム(Sannomiya & Yamaguchi , 2016)を用いて,他者の行動理由を多面的に推理する力を高めるトレーニングの結果を紹介する。

方 法
実験参加者 短期大学の保育者養成課程に所属する女性106名が実験に参加した。データの欠損が見られた者を除外した結果,101名のデータが分析対象となり,IPE有,IPE無,統制の3群の人数は,それぞれ34名,32名,35名となった。参加者の平均年齢は,18.72歳(SD=0.47)であった。
実験計画 トレーニング条件(IPE有,IPE無,統制)を独立変数,理由の発想数(思考の流暢性)およびカテゴリ数(思考の柔軟性)を従属変数とするプレ/ポストデザインとした。
問題と推理例 保育者を目指す女子短大生11名から,幼稚園や保育所で直面した,子どもの不可解な行動を収集し,15事例を得た。これらの事例を現職の保育者が精査し,現実にあり得るものを9事例選択した。このうち2事例をテスト用とした。Sannomiya & Yamaguchi(2016)にならい,テスト構成はプレテスト問題1問,ポストテスト問題2問(post-old:プレテストと同じ問題,post-new:新しい問題)とした。IPE有条件のトレーニングで呈示する7事例の行動理由各10例は,現職の保育者が経験に基づき考案したものを採用した。
手続き 実験は冊子を用いた集団形式をとった。トレーニングの7試行を1日で行うのは参加者にとって過重負担となることが予備実験から明らかになったため,3試行と4試行に分けて2日間で実施した。 
IPE有条件 トレーニング中の各問題に対して各自で理由を6分間にできるだけ多く推理して書き,その後,10個の推理例を呈示されることを繰り返すトレーニングを行った。トレーニング全体の前後に,プレテストとポストテストを行った。
IPE無条件 10個の推理例の呈示がない以外は,IPE有条件の手続きと同様である。
統制条件 トレーニングなしで,プレテストとポストテストのみを行った。

結 果
<分析1:全参加者のプレ・ポスト成績比較>
 理由推理の発想数およびカテゴリ数について,プレテストの値を統制変数,ポストテストの値を従属変数とする共分散分析およびその下位検定(Holm法による多重比較)を行い,次の有意な差を見出した:
発想数・カテゴリ数ともに,post-oldでIPE有 > 統制,post-newでIPE有およびIPE無 > 統制であった。
<分析2:低成績群のプレ・ポスト成績比較>
 初期成績の低かった参加者におけるトレーニングの効果を見るために,プレテストにおける発想数が7個以下の者について分析を行った。各テストにおける流暢性および柔軟性の平均および標準偏差は,Table 1の通りであった。なお,各条件の人数は,IPE有群21名,IPE無群17名,統制群20名であった。そのデータに対して,分析1と同様の統計処理を行い,次の有意な差を見出した:
発想数は,post-oldでIPE有 > IPE無および統制,post-newでIPE有 > 統制であった。カテゴリ数は,post-oldでIPE有 > IPE無および統制,post-newで IPE有 > IPE無 > 統制であった。

考 察
 他者の行動理由を多面的に推理するためのトレーニングの効果が明らかになった。ただし参加者全体では,統制条件との差は認められたものの,IPEの有無による差は生じていない(分析1)。一方,低成績群を見ると,概ねIPEの有無による差が生じている(分析2)。このことから,もともと行動の理由を数多く推理することができていなかった参加者においては,理由の推理を繰り返すだけのトレーニングよりも,IPEパラダイムを用いて事後的に呈示される発想によって触発される部分が大きかったのではないかと推察される。これに対して,自力で行動理由を推理する力がある程度高かった参加者は,IPEパラダイムを用いなくとも,単純な反復トレーニングのみによって推理力を伸ばすことができたのかもしれない。

キーワード
IPEパラダイム/多面的推理/不可解な行動


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