発表

1C-057

皮肉理解における意図的不調和が積み重なる効果

[責任発表者] 中村 太戯留:1
[連名発表者・登壇者] 松井 智子:2, 内海 彰:3
1:武蔵野大学, 2:東京学芸大学, 3:電気通信大学

 目 的
 発話における意図的な不調和は,皮肉を理解する際の重要な手掛かりとなる。話し手の発話は,「何が語られたか」(発話の意味)と「どう語られたか」(発話者の意味)の両方を聞き手が把握する必要がある(深谷&田中, 1996)。文脈情報との間に何らかの不調和を感知した際には,発話の意味ないし発話者の意味を調節することで不調和を解消し,直接的には語られていない意味(言外の意味)を聞き手は構成可能となる。
 本研究では,この2つの不調和が重なることの効果(内海, 2000)を実証的に捉えることを目的とした実験を実施した。

 方 法
 刺激素材 皮肉的表現は,まず文脈として自身(実験参加者)の行動や発言がもたらすポジティブな出来事またはネガティブな出来事を棒読み韻律の音声で提示し,次にその出来事に対する相手(友人,同僚,仲間など)のポジティブな内容のコメントをポジティブ,ネガティブ,または棒読み韻律の音声で提示する,という構成とした。なお,刺激の題材は,先行研究(Spotorno et al., 2012)の刺激の和訳をもとにしたが,音声提示は文字提示よりも実験参加者に負荷をかけることを考慮して,刺激文を短くしたり,日本人に馴染みのある内容に変更したりするなどの調整を施した。また,音声は声優にあらかじめ発話してもらったものを用いた。
 設定条件 条件としては,ポジティブ文脈とポジティブ内容とポジティブ韻律を組み合わせたPPP条件,ポジティブ文脈とポジティブ内容とネガティブ韻律を組み合わせたPPN条件,ポジティブ文脈とポジティブ内容と棒読み韻律を組み合わせたPPm条件,ネガティブ文脈とポジティブ内容とポジティブ韻律を組み合わせたNPP条件,ネガティブ文脈とポジティブ内容とネガティブ韻律を組み合わせたNPN条件,そしてネガティブ文脈とポジティブ内容と棒読み韻律を組み合わせたNPm条件,という6条件を設けた。なお,韻律の変化が意図的な不調和を感知する手掛かりとなりうるため,PPm条件とNPm条件は,文脈と同じ棒読み口調で相手の発話を提示することで,韻律が手掛かり情報とならないように工夫した基準条件として設けた。すなわち,同一内容でポジティブ韻律またはネガティブ韻律の「相手のポジティブ内容のコメント」が,「ポジティブな出来事」の際は字義通りのコメントとして,「ネガティブな出来事」の際は皮肉なコメントとして,解釈が可能となる。合計で72表現(12のストーリに対して,2文脈[ポジティブ,ネガティブ]×1発話内容[ポジティブ]×3発話韻律[ポジティブ,ネガティブ,棒読み])を用いた。
 実験参加者 22名(女性11名,男性11名)の大学生が実験に参加した。
 実験装置 刺激はノートパソコンで再生し,音声はヘッドフォンで実験参加者に提示した。
 手続き 各刺激をランダムな順序で提示し,「皮肉ですか?」という質問に対する回答を「皮肉」「字義」を両端とする7件法で回答してもらった。
 解析方法 「皮肉」を7,「字義」を1として数値化した「皮肉の度合い」に関して,2 (文脈:ポジティブ,ネガティブ) × 3 (発話韻律:ポジティブ,ネガティブ,棒読み)要因の分散分析を実施した。

 結 果
 文脈の主効果(F(1, 21) = 404.153, p < 0.001, η2 = 0.951),韻律の主効果(F(2, 42) = 132.089, p < 0.001, η2 = 0.863),そして交互作用(F(2, 42) = 17.938, p < 0.001, η2 = 0.461)が認められた。また,ポジティブ文脈の際の韻律の単純主効果(F(2, 84) = 124.093, p < 0.001, η2 = 0.881)は有意で,下位検定としてBonferroniの多重比較を実施したところ,皮肉度の平均値は,PPPが1.37,PPmが2.44,PPNが3.91で,各条件間の差は全て有意であった(標準誤差:0.102, p < 0.001)。一方,ネガティブ文脈の際の韻律の単純主効果(F(2, 84) = 48.542, p < 0.001, η2 = 0.742)も有意であるが,下位検定としてBonferroniの多重比較を実施したところ,NPPが5.40,NPmが5.48で差は有意ではなく,NPNが6.82でNPPやNPmとの差は有意であった(標準誤差:0.102, p < 0.001)。

 考 察
 ネガティブ文脈の際には,基準条件の棒読み韻律(NPm)とポジティブ韻律(NPP)の差が有意ではないことから,何らかの効果によりポジティブ文脈の際の棒読み韻律(PPm)とポジティブ韻律(PPP)の差が消失したと考えられた。NPP条件では,「何が語られたか」の不調和(ネガティブ文脈とポジティブ内容),および「どう語られたか」の不調和(ネガティブ文脈とポジティブ韻律)が重なっていることから,2つの不調和が重なることの効果であることが示唆された。
 謝辞 本研究は,国立国語研究所新領域創出型共同研究(代表:松井智子)の支援を受けて実施した。

 引用文献
深谷昌弘, & 田中茂範. (1996). コトバの意味づけ論:日常言語の生の営み. 紀伊國屋書店. (Fukaya, M., & Tanaka, S. (1996). A sense-making theory for real language activities. Tokyo: Kinokuniya.)
Spotorno, N., Koun, E., Prado, J., Van Der Henst, J.-B., & Noveck, I. A. (2012). Neural evidence that utterance-processing entails mentalizing: the case of irony. NeuroImage, 63 (1), 25-39.
Utsumi, A. (2000). Verbal irony as implicit display of ironic environment: Distinguishing ironic utterances from nonirony. Journal of Pragmatics, 32, 1777-1806.

キーワード
皮肉/不調和/発話者の意味


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