発表

1C-056

脳血流動態反応への音読による影響

[責任発表者] 福田 由紀:1
1:法政大学

問 題 と目 的 朗読をする際は黙読よりも,多重課題を行っている際に賦活する前頭極が有意に高かった(福田他,2018a)。また,朗読を予告された場合,それに先立つ黙読時に,予告されないで黙読した場合よりも快経験と関連する眼窩前頭前皮質が有意に賦活した(福田他,2018b)。しかし,これらの結果は朗読によるものなか,それとも発声により脳血流動態反応に変化が生じているのかを判別できない。そこで,福田他(2018a,b)と同じ手続きを用い,発声を明確にすることだけを指示した音読条件に関して検討を行った。
方 法参加者 エジンバラ利き手テストにより,右手利きであることを確認した,日本語を母語とする大学生15名。音読条件は男3名,女6名,黙読条件は男1名,女5名。なお,本実験は,法政大学文学部心理学科・心理学専攻倫理委員会にて承認を得た(承認番号18-0123)。
材料 福田他(2018a,b)によって使用された9枚のスライドからなる物語を用いた。彼らと同様に1-3スライドを設定部,4-6スライドを展開部,7-9スライドを結末部とした。
装置 脳血流動態反応を測定するために,NIRSシステム(ETG-4000,日立メディコ製)を用い,照射と検出プローブを3×11で配置した。前頭前領域から左右側頭領域にわたる52チャネルについて,サンプリングレート10 Hzで,酸素化ヘモグロビン濃度の変化量(⊿[oxyHb])を計測した。
手続き 音読条件では,「発声を明確にする」といった行動条件(福田・楢原, 2015)を満たすように練習を行わせた後,実験材料を参加者ペースで黙読させ(音読のプレに相当),内容質問2問に答えさせた。その後,一度黙読した材料を実際に音読させた(音読のポストに相当)。一方,黙読条件では,音読をさせない点を除いて,同じ手続きであった。
前処理 各チャネルで,課題を行っている全体のデータ点について,酸素化ヘモグロビン濃度の平均値と標準偏差を算出し,標準化した後,全チャネル内で全データ点についての平均波形を取得し,時間情報を用いて,スライドごとに呈示前300 msのヘモグロビン濃度をゼロ点とした場合の⊿[oxyHb]を算出した。さらに,スライド呈示中の⊿[oxyHb]の大きさを定量化するために,スライド呈示後から読み終わるまでの⊿[oxyHb]の最大値を算出した。
結 果 と 考 察音読条件におけるプレ(黙読)とポスト(音読)の比較 全チャネルをまとめ,正規化された⊿[oxyHb]の最大値について,2×3(測定時期:プレ・ポスト×物語構造:設定部・展開・結末部)の被験者内計画の分散分析を行った結果,測定時期の主効果のみに有意差が認められた(F(1,16)=14.30, p<.01)。プレ(M=1.00, SD=.32)の方がポスト(M=1.53, SD=.67)よりも変化量が高かった。
 そこで,物語全体について,チャネル毎に対応のあるt検定を行った。その際,有意水準は5%水準とし,Meff法(Uga et al., 2015)を用いて多重性を補正した。その結果,複数のチャネルでポスト(音読)の活性値がプレ(黙読)のそれよりも有意に大きかった(Ch2: t (8)=3.83, Ch4: t (8)=3.74, Ch7: t (8)=3.86, Ch9: t (8)=3.26, Ch11: t (8)=3.69, Ch16: t (8)=3.70, Ch19: t (8)=4.75, Ch20: t (8)=3.27, Ch39: t (8)=4.28, Ch42: t (8)=3.60, Ch44: t (8)=3.54, Ch50: t (8)=3.88)。さらに,仮想レジストレーション法(Tsuzuki et al.,2007)により,各チャネルは背外側前頭前皮質(BA9),左中側頭回(BA21),前頭極(BA10),前運動皮質および補足運動皮質(BA6)に対応しており,福田他(2018a)と一致している。特に,主目的を保持しつつ,副目的を遂行するといった高度な多重課題を行っている際に賦活する前頭極や,注意のコントロールに関連のある左背外側前頭前野が高く賦活していた。よって,音読も朗読と同様に,明確な発声を意識しながら,眼前の文字列を発声するといった高度な認知的遂行を要求する課題といえる。また,縁上回や下前頭回弁蓋部といった言語に関連する脳部位の有意な賦活が認められたことはデータの妥当性を示している。一方,言語処理への関連が示唆されている側頭極 (BA38) (Abo, et al., 2004)やSubcentral (BA43)の解釈に関しては今後の検討が必要である。
音読予告有り条件と予告無しの比較 音読予告有り条件は音読条件のプレのデータを,予告無し条件は黙読条件のそれを使用した。つまり,両条件とも黙読時のデータを比較する。全チャネルをまとめ,正規化された⊿[oxyHb]の最大値について,2×3(条件:音読予告有り・音読予告無し×物語構造:設定部・展開部・結末部)の2要因混合計画の分散分析を行った結果,物語構造の主効果のみに有意差が認められた(F (2,26)=3.84, p<.05)。設定部(M=1.35, SD=.49)の方が結末部(M=1.00, SD=.34)よりも活性値が高かった。この結果は,眼窩前頭前皮質の有意な賦活が,朗読予告有り条件において得られた福田他(2018b)の結果とは一致しない。
 以上のように,朗読と音読は両方とも読み手に高度な認知的処理を要求する点では共通している。一方,感情への影響の仕方は異なっており,別の課題であることが示唆される。
主 な 引 用 文 献Abo, M. et al. (2004). Language-related brain function  during word repetition in post-stroke aphasics. Brain Imaging, 15, 15, 1891-1894.
福田他(2018a).朗読と黙読における脳血流動態反応の比較 日本教育心理学会第60回総会発表論文集, 652.
福田他(2018a).脳血流動態反応への朗読予告による影響 日本心理学会第82回総会発表論文集, 1384.
※本研究は著者がJSPS科研費JP16K04319の助成を受け,行いました。

キーワード
音読/脳血流動態反応/NIRS


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