発表

1B-059

語彙についての既知-未知判断課題および多肢選択課題と読書への親近性の関連
高校生から60歳代までを対象とした大規模調査による検討

[責任発表者] 猪原 敬介:1
[連名発表者・登壇者] 松尾 千佳#:2, 古屋 美樹#:2
1:くらしき作陽大学, 2:ベネッセコーポレーション

 語彙の測定について,多肢選択問題と,ある単語リストに対してそれぞれの単語を知っているかどうかを判断する既知-未知判断課題の成績には中程度の関係があり,両者には共通する成分に加えて独自の成分があることが示唆される(猪原ら, 2017, 2019)。本研究では,先行研究と同様の調査を行う際,読書についての質問項目を追加し,これらの両課題の違いを,読書についての質問項目との関連から検討した。

方法
 高校生,大学生,20~39歳の社会人(社会人1),40~69歳の社会人(社会人2)の合計3028名が参加した。調査は「第3回 現代人の語彙に関する調査」(ベネッセコーポレーション, 2018)の一部として行われた。
 調査は,(a) 参加者属性質問(性別,年齢,職業など),(b) 生活質問1(読書についての質問項目など),(c) アンカー項目(後述)に対する既知-未知判断課題(20項目),(d) アンカー項目以外の項目に対する既知-未知判断課題(参加者一人当たり100項目),(e) アンカー項目に対する多肢選択課題(20項目),(f) 言い換えについての語彙課題,(g) 生活質問2(SNS使用など),の順で行われた。
 アンカー項目について,猪原ら (2019) から,正答ではない選択肢の正答率が最も高いなど,問題の妥当性が疑われる4項目のみを入れ替えた20項目を用いた。既知-未知判断課題においては選択肢の幹語(フレーズ)のみが,多肢選択課題においては幹語(フレーズ)と5択から成る選択肢が使用された。
 既知-未知判断課題について,「次のそれぞれの言葉について,その言葉の意味が分かるならば,「知っている」を選んでください。その言葉を見たことも聞いたこともなかったり,見たり聞いたりしたことはあるが,意味がはっきりと分からないときには,「知らない」を選んでください」という教示に続き,アンカー項目である20項目が提示された。多肢選択課題について,「次の言葉の意味としてもっとも適当なものを1つ選んでください」という教示に続き,アンカー項目である20項目が提示された。
 読書についての質問項目として「読書好意度」「読書冊数」の2項目があった。「読書好意度」は「あなたは読書は好きですか。次のなかからもっともあてはまるものを選んでください。」という質問に対して7件法で回答するものであった。「読書冊数」は「あなたは,紙の本や電子書籍をどのくらい読みますか(マンガや雑誌は除く)。あてはまるものを選んでください。」という質問に対して6件法で回答するものであった。

結果
 読書についての2つの質問項目を間隔尺度とみなし,1因子解による主成分分析を行い,得られた第1主成分得点を「読書への親近性」得点として以後の分析に利用した。
 読書量を予測変数,既知-未知判断課題における既知率を媒介変数,多肢選択課題における正答率を目的変数とする媒介分析を行った。推定法は最尤法であった。以下の係数はすべて標準化したものである。分析結果をFigure 1にまとめた。
 参加者全体 (n=2930) のデータに対して,まず予測変数である読書量から目的変数である正答率への総合効果について検討した。その結果,b=0.286 (p<.01) で有意であった。次に媒介変数として既知率を追加した媒介分析を行った結果,間接効果が0.235 (p<.01)で有意であった。読書量から正答率への直接効果もb=0.050 (p<.01)で有意であったが,効果の大きさは減じている。すなわち,読書量から正答率への効果は,既知率によって部分的な媒介効果があった。同様の分析を,高校生 (n=938),大学生 (n=998),社会人1 (n=492),社会人2 (n=502) に分けて行った。その結果,間接効果および直接効果の数値の大小パターンは,参加者全体の分析とほぼ同様であった。

考察
 媒介分析の結果から,読書への親近性が高いことは,多肢選択課題における正答率を直接予測するというよりも,既知-未知判断課題における既知率を予測し,この既知率の高さが,正答率の高さを予測するという構造が見られることが明らかとなった。このことは,(a) 既知-未知判断課題における既知率は,読書による,その単語・フレーズに対する「熟知感の上昇」や「経験文脈数の増加に基づく大まかな意味推定の成立」を反映している。そのため,読書への親近性から直接的に予測できる,(b) 多肢選択課題における正答率は,一定量以上の読書経験が積み重なり,aのプロセスも経た上での「より正確な意味推定の成立」を反映している,という2つの説明によって解釈することができる。

キーワード
語彙/語彙テスト/読書


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