発表

1B-058

文章の変化検出における人称代名詞の効果

[責任発表者] 望月 正哉:1
1:日本大学

目 的 物語理解において,登場人物の視点から物語を読むことによって,その人物の内容に関連する情報の変化を検出しやすくなることが知られている(Bohan & Filik, 2018)。このような視点取得は教示によって決定されることもあるが,文章に含まれる人称代名詞によっても促される(Brunyé et al., 2009)。英語を刺激とした研究では,一人称代名詞や二人称代名詞を読むと当事者(内的)視点が,三人称代名詞を傍観者(外的)視点が取得され(Ditman et al., 2010),特に内的視点を取得したときに関連情報に対する課題成績が良い。このメカニズムについてFukuda & Sanford(2008)は自己を言及するような人称代名詞によって関連する情報を自己化することで起こるとしている。一方で,Ditman et al.(2010)は,登場人物の行為に関する情報には人称代名詞の影響がみられるが,説明的な情報に対してはそれがみられないことから,行為を心的にシミュレートすることで成績が上昇するとしている。本研究では,人称代名詞を操作した複数の登場人物が登場する短い物語文に対する変化検出課題を実施し,人称代名詞が文章中の登場人物のどのような内容に対する変化に影響するのか検討した。
方 法 参加者と実験計画 日本語母語話者の大学生・大学院生61名(女性31名,平均20.8歳)が参加した。実験計画は2(代名詞:一人称/三人称)×2(変化内容:主人公/他者)の2要因実験参加者内計画であった。分析では共変量として文章に対する参加者の親密度評定と参加者の視覚イメージ尺度(川原・松原, 2009)も投入した。
 提示刺激 二人の登場人物が何らかの状況で関わる場面を4文で説明する物語文を48セット作成した。このうち半分は一人称代名詞(私)が含まれる文章で,残りの半分は三人称代名詞(女性参加者には彼,男性参加者には彼女で始まる)が含まれる文章であった。変化検出課題では,同じ文章を二度提示するが,ターゲットとなる文章(24セット)では,4文のうち1文の1単語を変化させた。このうち12セットが主人公(人称代名詞で言及される登場人物)に関する記述に変化があり,残りの12セットでは他者の記述に変化があった。作成した48セットのうちどのセット,どちらの登場人物の記述に変化があるかは4つのカウンターバランスリストを作成し,参加者によって異なっていた。
 手続き 参加者は画面に呈示される文を1文ずつ自己ペースで2回読んだ。文の切り替えはスペースキーで行い,文の提示開始からキーが押されるまでをその文の読み時間とした。1回目の提示が終わると,文章に関する理解テストを実施した。その後2回目の文章の呈示の提示を始めた。2回目の提示後,画面には変化の有無を尋ねる質問を提示し,参加者が変化があったと回答すると,回答窓を表示し,参加者にキーボード入力によって変化箇所を回答させた。回答の終了もしくは変化がなかったと回答すると,続いて親密度評価の画面を提示し,今読んだ文章の内容が,参加者にとってどの程度なじみのあるものかを7件法(1:まったくなじみがない,7:とてもなじみがある)で回答した。これで1試行が終了し次の試行に進んだ。48セットの文はランダム順に呈示された。参加者は各試行の開始前に自由に休憩を取ることができた。
結 果 変化検出課題の正答率が50%以下の参加者3名は分析から除外した。また,1回目の読みの後に実施した理解テストで正答でなかった試行の変化検出課題の回答も分析から除外した。このデータに対して,代名詞と変化内容,それらの交互作用を固定効果とした一般化線形混合モデルを実施したところ,代名詞の主効果が有意で,一人称条件のほうが正答率が高かった(Table 1, Esstimate = -.0.79, SE = 0.32, z = -2.44, p = .01)。一方で,変化内容の主効果と交互作用は有意ではなかった。また,1回目の読み時間についても分析するために,各文の読み時間を文の文字数で割った,1文字あたりの読み時間を算出した。分析に際しては参加者ごとに平均時間から±2SD外の試行は外れ値として除去した。代名詞と文の順番,その交互作用を固定効果とした線形混合モデルを実施したところ,代名詞の主効果(F (1, 46) = 9.49, p = .003),文番号の主効果(F (3, 79.7) = 69.48, p < .001)と親密度(F (1, 9570.2) = 10.78, p = .001)が有意となった。
考 察 変化検出課題の結果から,先行研究と同様に一人称を含む文章を読むほうがその内容の変化をよく検出することが示された。代名詞で言及される人物とそれ以外の人物の変化検出率には違いがなかったことから,自己の行為がシミュレートされることによって課題成績が上がったという説明は成り立ちにくい。Fukuda and Sanford(2008)では,一人称代名詞がどのように自己化を促しているかは明らかでなかったが,本研究の結果からは一人称代名詞が文章全体に対して注意が向けさせる役割があることが示唆される。また,読み時間の結果からは初読の段階から代名詞の効果がみられたことから,一人称代名詞による課題処理の促進的効果は,符号化の段階からみられることを示唆している。

キーワード
文章理解/人称代名詞/変化検出


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