発表

3D-055

想起時の閉眼は取調べ被暗示性を低減するか?

[責任発表者] 丹藤 克也:1
1:愛知淑徳大学

 問題と目的
 想起時に目を閉じることで,正再生が促進されることが知られており,これを閉眼効果という(e.g., Vredeveldt et al., 2011)。閉眼効果は,閉眼面接法(Eye-Closure Interview)として目撃証言の聴取に応用する試みもなされている(Vredeveldt et al., 2015)。しかしながら,想起時の閉眼が,正再生の促進ではなく,記憶の被暗示性を低減するのかについては,十分な検討が行われていない。Wagstaff et al.(2011)は取調べにおける被暗示性の個人差を測定するGudjonsson被暗示性尺度(GSS; Gudjonsson, 1984, 1997)を用いて,閉眼の効果を検討している。その結果,閉眼と自然な呼吸に注意を集中させる簡易な瞑想を組合わせることで,GSSの各指標において,被暗示性が低減されることを報告している。ただし,閉眼のみを単体で用いた場合の低減効果は明らかでない。もし外界からの視覚情報(e.g., 面接者の顔や行動など)を遮断することで,面接者からの社会的圧力を回避できるのであれば,簡易な瞑想を含まず閉眼を単体で用いた場合でも,被暗示性を低減できる可能性がある。また,社会的圧力への対処には,自己制御能力が関わっていることが考えられる。そのため,自己制御能力が高い者ほど,誘導的な質問への耐性が高いことが予想される。
 そこで,本研究では想起時の閉眼が取調べ被暗示性を低減するのかについて,GSSを用いて検討する。同時に,自己制御の個人差と被暗示性の関係についても検討する。
 方法
 実験計画:想起条件(閉眼条件/開眼条件)の1要因実験参加者間計画であった。
 実験参加者:大学生52名(女性43名,平均年齢19.4,SD = 0.79)。閉眼条件26名,開眼条件26名であった。
 尺度:日本語版Gudjonsson被暗示性尺度 2(GSS 2; 渡邉他,2013)を使用した。ある夫婦が少年を助けるという短い物語を聴覚提示し,その後,事実と異なる内容を尋ねる誘導質問15項目を含む20項目の質問を実施するものであった。自己制御を測定するために,日本語版BSCS(尾崎他,2016)を用いた。全13項目に対して,5件法で回答を求めた。
 手続き:実験は個別で実施された。GSS 2の物語を聴覚呈示し,直後に自由再生を求めた。15分間の視空間的なフィラー課題を実施した後で,再度の自由再生を求めた。続けて,物語について20項目の質問を行った。その際,閉眼条件のみ目を閉じたまま質問に回答するよう教示した。BSCSへの回答を求めた後で,20項目の質問への回答に関する正誤をフィードバックした。この時,実際の正誤に関わらず回答に多くの間違いがあったと否定的フィードバックを与え,今度は正しく回答するように伝えて,同一項目について再度の質問を行った。フィードバック前の誘導質問に対する誤回答を「服従1(yield 1)」,否定的フィードバック後の回答変更を「変更(shift)」,これらの合計を「被暗示性」とした。
 結果
 GSS 2における「服従1」「変更」「被暗示性」の各得点をFig. 1に示した。各得点が想起条件によって異なるのかについて,t検定を行った。その結果,開眼条件(M = 11.3,SD = 5.2)と比べ,閉眼条件(M = 9.1,SD = 4.4)では「被暗示性」が有意に低かった(片側検定,t(50) = 1.683, p = .049, dunbiased = 0.46, 95% CI [-0.09, 1.02])。また,「服従 1」 ( t(50) = 1.496, p = .070, dunbiased = 0.42, 95% CI [-0.14, 0.96])および「変更」 ( t(50) = 1.38, p =.086, dunbiased = 0.38, 95% CI [-0.17, 0.93])についても,開眼条件より閉眼条件のほうが,得点が低い傾向が認められた。
 次に,BSCSと「服従1」「変更」「被暗示性」の相関係数を想起条件ごとに算出した。開眼条件では,いずれの指標もBSCSと有意な相関が認められなかった( rs < -.18, ns)。一方,閉眼条件においては,BSCSと「変更」に有意な負の相関( r = -.40, p < .05)が,BSCSと「被暗示性」の負の相関が有意傾向であった( r = -.36, p < .10)。
 考察
 本研究では,想起時の閉眼が,取調べ被暗示性を低減するかについて検討した。実験の結果,被暗示性に関する各指標において,予想と一致した方向での効果が得られた。このことから,閉眼による視覚情報の遮断が,面接者からの社会的圧力を低減し誘導的質問への耐性を高めた可能性が考えられる。また,閉眼条件では,自己制御が高いほど,GSS 2の「変更」が低かった。このことから,自己制御はある条件下において社会的圧力への抵抗性を高める可能性が示唆された。
 付記
 本研究は愛知淑徳大学心理学部2017年度卒業生の加藤紗恵氏が著者の指導のもとで実施した卒業研究を再分析したものである。また,日本語版GSS 2は科学警察研究所の渡邊和美氏にご提供いただいた。記して感謝したい。

キーワード
閉眼効果/取調べ被暗示性/自己制御


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