発表

3C-061

失敗経験と他者との交流の自伝的記憶について

[責任発表者] 関口 理久子:1
[連名発表者・登壇者] サティン アンジェリーナ#:2
1:関西大学, 2:フロリダ州立大学

 目 的
 Sutin & Robins(2007) により開発された記憶経験質問紙(Memory Experience Questionnaire,MEQ)は,自伝的記憶想起時の主観的特性を10の次元に分けて測定する尺度であり,短縮版も作成されている。成功・失敗の自伝的記憶では自尊感情の高低と関連があること(D'Argembeau & Van der Linden, 2008),また情動的・対人的な自伝的記憶では性差が報告されていることから,本研究では,記憶経験質問紙の日本語版(関口・Sutin, 2016)により,失敗や挫折の自伝的記憶のうち特に他者との交流に焦点をあてて尋ね,想起時の主観的特性と自尊感情,現在の評価,性差についての関連を検討することを目的とする。
 方 法
参加者 大学生120(男45,女75)名,平均年齢21.1歳,年齢範囲18〜25歳。
質問紙 質問紙の構成については以下のとおりである。(1)フェイスシート(性別・年齢)。同意を求めるチェック項目。(2)自尊感情尺度(桜井, 2000)。(3)失敗・挫折経験について,特に特定の誰かとの交流についての自伝的記憶の想起を教示し記述を求めた。(4) 想起エピソード時の年齢(以下記憶年齢)。 (5)思い浮かべた人物への好悪や親密度。 (6)想起エピソードについてMEQ短縮版により評価。MEQは,鮮明さ,一貫性,思い出しやすさ,感覚的詳細さ,感情強度,視点,時間的遠近感,他者との共有,隔たり感,感情価の10下位尺度,31項目(5件法)から構成。(7) 想起エピソードに対する現在の肯定的自己評価(以下PE)・否定的自己評価(以下NE)を各3項目で評価。
手続き 調査は無記名で行われ,同意した参加者のみ回答し,回答後回収した。
 結 果
 記憶年齢は平均17.9歳(SD=3.3)であった。想起エピソードのMEQ下位尺度得点,PEおよびNEを算出した。
 主な相関分析の結果をまとめると,思い出しやすさと情動価はPEと正の相関が認められた(rs=.31; .38, p<.01)。感情強度,感覚的詳細さおよび時間的遠近感はNEと正の相関(rs=.40; .26; .25, p<.01),情動価とは強い負の相関が認められた(r=-.65, p<.001)。一貫性と情動価は自尊感情と弱い正の相関(rs=.20; .21, p<.05),感情強度は自尊感情と弱い負の相関が認められた(r=-.20, p<.05)。
 MEQの下位尺度得点を従属変数として,性別を独立変数としたt検定を行ったところ有意差は認められなかった。また性別(2)×現在の評価(2)の分散分析を行ったところ,交互作用が有意傾向であり(F(1,116)=3.77, p<.06, 2=.03),PEにおいて性差が認められ女性の方が有意に評価が高かった。
 自尊感情得点より自尊高低群に分け,MEQの下位尺度得点を従属変数として,自尊感情(2)×性別(2)の分散分析を行ったところ,情動価において自尊感情の主効果が認められ(F(1,116)=4.12, p<.05, 2=.03),自尊感情が高い方が情動価が肯定的であった。現在の評価にも同様の分析を行ったところ,PEにおいては性別の主効果が認められ女性の方が有意に高かった(F(1,116)=4.48, p<.05, 2=.04)。NEにおいては交互作用が有意であり(F(1,116)=3.91, p<.05, 2=.03),女性では自尊感情が高いとNEが低いが男性では群の差はなかった。
 想起人物に対する当時の好悪または親密度の程度により主観的特性が異なるかどうか分析するために,評価値により2群に分け,MEQの下位尺度得点およびPEとNEを従属変数として分析を行った。性別(2)×人物好悪(2)の分散分析においては,情動価において人物好悪の主効果が有意であり(F(1,116)=11.87, p<.001, 2=.09),好きな方が情動価が肯定的であった。また性別(2)×親密度(2)では,一貫性のみ有意であり(F(1,116)=4.47, p<.05, 2=.04),親密度が低い方が一貫性が高かった。PEとNEを従属変数として,人物好悪および親密度について同様の検討したところ,PEにおいて好悪の主効果が認められ(F(1,116)=8.48, p<.01, 2=.07),好きな方が高かった。親密度の主効果も認められ,親密である方が高かった。NEにおいては,性別×好悪の交互作用が認められ(F(1,116)=4.28, p<.05, 2=.04),女性では好きな人物へのNEが有意に低かった。親密度の主効果も認められ(F(1,116)=6.87, p<.01, 2=.06),好きな方が低かった。
 考 察
 本研究の結果,自尊感情と自伝的記憶の想起特性との関連については先行研究同様の結果が示された。しかし,性差については先行研究と異なり性差が示されなかった。本研究で特に重要なのは,現在の肯定的・否定的評価との関連である。自尊感情の高い個人は現在の肯定的評価が高く,対人的な好悪や親密性においても好きであることや親密な人物であることが現在の肯定的評価を高くすることが示され,これは想起させたのが失敗や挫折の経験であることと関連しており,否定的な経験の再評価について示唆的な結果が得られたと考える。
 引用文献
D'Argembeau,A & Van der Linden, M.(2008).Memory,16, 538-547.
桜井茂男(2000). 筑波大学発達臨床心理学研究,12,65-71.
関口理久子・Sutin, A. R.(2016). 日本パーソナリティ心理学会第25回大会発表論文集.
Sutin, A.R. & Robins, R.W. (2007). Memory, 15, 390-411.
*本研究は,足立和規氏の卒業研究(2018年度関西大学)のデータの一部を,許可を得て再分析したものである。

キーワード
記憶経験質問紙/失敗経験/他者との交流


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