発表

3B-056

言語化の有無を要因とした記憶実験で使用する音声刺激の作成

[責任発表者] 井上 晴菜:1
1:法政大学

目 的 非言語的刺激では,言語化により再認成績は抑制される,つまり言語隠蔽効果(verbal overshadowing effect)が見られる(Schooler & Engstler-Schooler, 1990)とされている。これは,顔を刺激とした実験で多く報告されているが,音声を用いた実験でも見られている(Perfect, Hunt, & Harris, 2002; Vanags, Carroll, & Perfect, 2005)。しかし,促進された実験(田中, 2017)もあり,結果は一貫していない。従来の研究では,音声刺激の選定は,評定者による,類似度の評定を基に行われていることが多い。しかし,音声刺激の類似性は実験に影響する重要な変数となり得るにも関わらず,上記の方法では,言語化した内容の類似度が妥当であるとは言い難い。本予備実験では,音声刺激を言語化した内容の類似度を指標として,類似度の高いペアと低いペアの選定を行う。それに伴い,言語化の内容が類似した(類似していない)音声刺激のペアの候補を挙げるために多次元尺度構成法(MDS)とクラスター分析を行う。さらに,その候補の中から,本実験で使用する,弁別が十分可能な音声刺激のペアを選定するために弁別課題を用いる。

方 法 参加者 大学生16名(男性10名,女性6名,19-23歳)であった。
 刺激 8名の男性の音声を用いた。そのうち,今後行う本実験で用いる予定のセリフ(オレオレ詐欺を模した内容:1分)と,14種類の短いセリフ(例:よろしくお願いします),同じく本実験で用いる予定のセリフ(アリバイ証言を模した内容:1分)を使用した。
 手続き まず評価段階として,参加者には1分間のオレオレ詐欺を模した音声を聴いている間に,評価用紙に回答してもらった。評価項目の内容は,木戸・粕谷(2001)が行った聴取評価を参考にした6つの声質表現語対であり,例えば,「高い声-低い声」といったもの(Table1参照)で,それぞれ「非常に(3)」,「かなり(2)」,「やや(1)」,「普通(0)」のいずれか当てはまる数字1つを回答してもらった(7件法)。音声の呈示順序は,参加者によってラテン方格によるカウンターバランスを取った。その後,同異判断段階として,2つの異なる内容の短い音声を連続で呈示し,それらの音声が同一人物である場合は「はい」,そうでない場合は「いいえ」と,口頭で回答してもらい,実験者が記録した。2つの音声は,同一人物のものである場合と,そうでない場合があるが,その割合を等しくするため,1人の参加者につき112試行行った。例えば,話者1と話者2を呈示するときは,話者1「おやすみ,また明日」と話者2「ただいま帰りました」となった。なお,ちょうど半分の56試行目で小休憩(約1分間)をとった。その後,言語化段階として,参加者には,1人の話者のアリバイ証言を模した音声(1分間)を聴いてもらった後,その音声の特徴や印象を自由記述で回答してもらった。その際,評価段階で用いた形容詞を使用しても良いとし, 自由に記述してもらった(5分間)。

結果と考察 Table1は各話者ごとに算出した声質表現語対の評定値の平均値を示す。それを用い,MDS(ALSCAL)と階層クラスター分析(ward法)を行った。その結果,まずMDSにより話者1と話者4,話者6と話者7,話者2と話者5の各ペアが,同じ象限に収まった上で,音声を言語化した内容の類似度が高いことがわかった(Figure1)。さらに,階層クラスター分析により,話者1と話者4が最初の段階でクラスターに構成される刺激の組み合わせになっており,話者6と話者7がその次の段階でクラスターに構成されることがわかった。以上より,話者1と話者4,話者6と話者7のペアを類似ペアの候補とした。そして,同異判断段階の弁別課題の正答率を算出したところ,話者6と話者7は43.8%と低かったが,話者1と話者4は81.3%と十分に高かった。そのため,本実験では,話者1と話者4を類似ペアとして使用することにする。また,非類似ペアは,Figure1で,類似ペアの一方と最も距離があり,かつ弁別課題の正答率が十分に高いペアである,話者3と話者4とする。

キーワード
耳撃証言/ボイスラインナップ/言語隠蔽効果


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