発表

3A-061

知的障害者における視空間性ワーキングメモリ
日常物の形と位置およびその統合の保持

[責任発表者] 大井 雄平:1
[連名発表者・登壇者] 奥住 秀之:2
1:常葉大学, 2:東京学芸大学

問題と目的 知的障害は全般的な知的発達の遅れと適応行動の制約を主徴とする神経発達障害である。知的障害に伴う知的機能の低下の中でも,ワーキングメモリの障害が中核的であるとされる一方で,視空間性ワーキングメモリに関しては比較的良好に保たれている可能性が示唆されている (Lifshitz, Kilberg, & Vakil, 2016)。本研究では,知的障害者に対する心理教育的アプローチへの示唆を期待し,知的障害者の視空間性ワーキングメモリに関する特性を明らかにすることを目的とした。特に,知的障害者の支援において具体的で生活に根ざした対応が強調されることから,本研究では日常物を記銘材料とし,その形,位置,およびそれらの統合情報を保持する能力を包括的に検討した。方法参加者 知的障害者23名(26.9 ± 15.1歳;男性14名;IQ56.3 ± 13.7)および定型発達児23名(7.7 ± 1.3歳;男性9名)が本研究に参加した。両群は非言語性知能(レーブン色彩マトリックス検査により評価)および性別で一致していた (ps < .05)。
課題と手続き 3つの視空間性ワーキングメモリ課題(視覚課題,空間課題,統合課題)を実施した (Figure 1)。すべての課題において,ターゲット刺激として日常物を表す線画がマトリックス上のセルのいずれかに呈示された。ターゲット刺激はすべて同時に5秒間呈示され,1秒間の遅延の後に,呈示されたターゲット刺激と同数のテスト刺激が呈示された。視覚課題ではターゲット刺激の形を,空間課題ではターゲット刺激の位置を,統合課題ではターゲット刺激の形と位置を覚え,テスト刺激の中から正しいものを選択することが求められた。ターゲット刺激の個数は3から6までであり,それぞれにつき2試行が各課題において与えられた。結果 各課題において,正答試行にターゲット刺激の個数分の得点を与え,その合計を課題成績として算出した。Figure 2は課題成績の平均値を示している。
 2(グループ:知的障害 vs. 定型発達)× 3(課題:視覚 vs. 空間 vs. 統合)の混合計画分散分析を行った結果,グループおよび課題の主効果,グループ × 課題の交互作用が有意であった(グループ:F1, 44 = 7.00, p = .011, η2 = .06;課題:F1.79, 78.6 = 31.80, p = .001, η2 = .21;グループ × 課題:F1.79, 78.6 = 4.39, p = .019, η2 = .03)。下位検定の結果,視覚課題および統合課題において,知的障害者は定型発達児よりも有意に低い課題成績を示していた(視覚課題:F1, 44 = 12.00, p = .001, η2 = .21;統合課題:F1, 44 = 7.53, p = .009, η2 = .15)。空間課題においては,有意な群間差は認められなかった(F1, 44 = 0.01, p = .928, η2 = .00)。
 以上の結果から,知的障害者は日常物の形に関する保持に機能低下を示した。さらに,形と位置の統合を保持することに関して機能低下を示したが,これは視覚課題および空間課題の個人差を考慮した後でも依然として確認された (p = .042)。一方で,日常物の位置を保持することに関しては,機能低下を示さなかった。
考察 本研究により,知的障害者の視空間性ワーキングメモリにおける不均質な特性が明らかとなった。視覚課題の結果からは知的障害者における視覚性ワーキングメモリの障害が示唆されるが,先行研究の結果から考えると,日常物の形に対する言語的符号化の弱さにより,日常物の形を保持することに不利が生じた可能性がある。また,知的障害者における視空間統合の弱さが示された。知的障害者は注意制御に困難を示すことが知られており,視空間統合に関与する能動的なプロセスの弱さが背景にあることが考えられる。一方で,日常物の位置を保持する能力は保たれており,空間性ワーキングメモリの良好さが示唆された。引用文献Lifshitz, H., Kilberg, E., & Vakil, E. (2016). Research     in Developmental Disabilities, 59, 147–165.

キーワード
注意/記憶/神経発達障害


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