発表

3A-060

初期のアルツハイマー型認知症患者における物語課題の再生特徴

[責任発表者] 光戸 利奈:1,3
[連名発表者・登壇者] 錦織 翼#:1, 佐野 ひかり#:1, 辰川 匡史#:1, 橋本 優花里:2, 宮谷 真人:3
1:医療法人辰川会山陽病院, 2:長崎県立大学, 3:広島大学

【目的】リバーミード行動記憶検査の下位検査の1つである「物語」は,物語を聞かせ,覚えている内容をできるだけ多く再生させる課題である。近年,物語課題の得点がアルツハイマー型認知症(以下AD)や軽度認知障害(mild cognitive impairment)を検出する上で有用であることが示唆されている(光戸ら,2013)。さらに,再生した内容を質的に検討することによって,物語の処理過程における対象者の再生特徴を明らかにすることができることも示されている。例えば,光戸ら(2016)は,物語を理解する際は,個々の単語や文の意味を理解するだけではなく,物語の構造となる認知的枠組みの理解が重要となることに着目した。そして,Bransford & MacCarrell(1974)に従って,物語文を「設定」「展開」「内面的反応」「問題解決過程」「結果」「反応」の認知的枠組みに分類し,それぞれにおける初期のADと健常高齢者の再生率を求め比較した。その結果,初期のAD群は健常高齢者群よりも問題解決過程と結果の再生率が低下することが明らかとなった。しかし,光戸ら(2016)の研究では,あらかじめ分類した認知的枠組みに含まれる項目数が枠組みによって異なるといった問題があった。また,再生の有無の判断には,項目と同じ語を再生した「同語」と文脈上意味的に同じ語を再生した「同意語」を用いていた。我々は,物語文の単語や文の要素から,理解した内容を心の中に形成していることから(森,2001),物語を再生する際は,同意語による再生も多い。しかし,もし心的表象の形成ができていないのであれば,同意語が極端に少なくなる可能性も考えられる。そこで,同語や同意語に着目することでADやNDの物語の理解の違いが検討できるのではないかと考えた。本研究では,光戸ら(2016)のデータに人数を追加し,物語文の全25項目の再生率を用いて初期のAD患者の物語再生の特徴について明らかにすることを目的とした。さらに,再生語を同語と同意語に分類し,それぞれ再生率の比較し,物語の表象形成における違いについて検討した。

【方法】対象者:MMSEが24点以上のAD患者50名(平均年齢:80.2歳,SD=5.16),認知症や脳血管障害による病院受診歴のない地域の高齢者および認知症のない入院患者(non-dementia(以下ND))32名(平均年齢:78.8歳,SD=6.87)。
手続き:対象者はそれぞれ個別に個室にてRBMTのA版の物語課題の直後再生を実施した。再生した内容はICレコーダーに記録し,逐語録を作成した。逐語録を基に,再生率を項目ごとに求め,再生率の高い項目を調べた。次に再生語を同語と同意語に分類し,それぞれ再生率を求めた。

【結果】物語文25項目のうち,再生率の高かった上位5項目はAD群とND群では異なる項目であった。AD群は「100万円を(84.0%)」「古新聞に(74.0%)」「はさんでおいたのを

(54.0%)」「主婦が(50.0%)」「出してしまった(50.0%)」であり,ND群は「100万円を(96.9%)」「はさんでおいたのを(87.5%)」「古新聞に(84.4%)」「駆けつけ(81.3%)」「調べ(81.3%)」「発見した(81.3%)」であった。また,物語文を句点部分で「開始部」「展開部」「終末部」で区切った際,AD群の上位項目はすべて開始部に含まれていたが,ND群の上位項目は開始部のものが3項目,終末部のものが3項目であった。そして,同語による再生と同意語による再生の比率を調べた結果,全25項目のうち,AD群は同語による再生率が57.9%,同意語が42.1%,ND群は同語よる再生率が49.7%,同意語が50.3%であった。これについてχ2検定を行ったところ,AD群はND群より同語での再生率が高いことが示された(χ2(1,N=661)=4.33, p<0.05)。しかし,それぞれの項目ごとに比較すると「はさんでおいたのを」「運ばれた」「工場まで」「かけつけ」「調べ」「発見した」の項目において,両群とも同意語による再生のほうが同語による再生よりも多いことが示された。

【考察】本研究では,初期のAD患者の物語の再生特徴を詳細に捉えることを目的に,物語文全25項目の再生率を用いて検討した。さらに,再生語を同語と同意語に分類し,それぞれ再生率を求め検討を行った。物語文25項目のうち,再生率の高かった上位5項目はAD群ではすべて開始部の項目であったが,ND群は開始部と終末部に分散した。一般的に,物語を開始部,展開部,終末部と区切った際,再生率は開始部と終末部が展開部と比べて高くなることや,物語の結末部の再生は健常高齢者であれば,高齢後期まで保たれることから(Ohgami, 2009),ND群は先行研究と同等の結果であったといえる。一方,AD群は,ND群とは異なり,物語の結末部の再生が少なかった。これについては,最終的にどうなったか,という物事の結末が出てこないといったADの特徴をよく反映している結果であったといえる。そして,ADは物語の開始部に注意を集中させ,結末部では持続が困難で記憶されなかったという入力の問題や,記憶はされたものの結末部を再生できないという出力の問題があった可能性が考えられる。これについては,再認課題を用いることなどで入力もしくは出力に問題があるかが明らかにできるのではないかと考える。また,AD群はND群よりも同語による再生が多かったが,項目ごとに比較してみると,同意語による再生率が高いものも多く,AD群もND群も物語文を字面通りに覚えるのではなく,心的表象を作るようにして覚えている可能性が高いことが示唆された。今後は,ADが結末部を再生できなかった原因について再認課題を用いて検討したり,キーワード(重要語句)や認知機能との関連性についても明らかにしていきたい。

キーワード
物語理解/アルツハイマー型認知症/質的検討


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