発表

2D-053

指示忘却課題における記憶負荷の異なる条件下での記銘方略の検討

[責任発表者] 田中 千晶:1
[連名発表者・登壇者] 谷内 通:1
1:金沢大学

 目的
 我々は,外界の情報が重要な場合にはリハーサルを繰り返して情報を維持する一方で,不要な情報に対してはリハーサルを停止することができる。この能動的なリハーサル制御能力は,容量に限界のあるワーキングメモリの有効活用に利点がある。
 能動的なリハーサル制御能力は,主に指示忘却現象を通じて検討されてきた。ヒトにおける指示忘却手続きでは,複数の項目を系列提示する。単一の項目提示に続けて,後の記憶テストを信号する“記銘手がかり”,あるいは後の記憶テストの不在を信号する“忘却手がかり”のどちらか一方を提示する。すべての項目の提示後に,指示手がかりにかかわらず,すべての項目についてテストすると,記銘項目と比較して忘却項目の記憶成績が低下する。指示忘却が生じるメカニズムの1つとして,忘却項目に対するリハーサルの停止により,忘却項目から記銘項目へと記憶資源の再配分がなされることが仮定されている。
 ヒト以外の動物でも記憶資源再配分型の指示忘却手続きが用いられている(e.g., Roper, Kaiser, & Zentall, 1995)。動物を対象とした典型的な指示忘却手続きでは,見本刺激の提示に続けて記銘手がかりを提示する“記銘試行”と,見本刺激に続けて忘却手がかりを提示する“忘却試行”の2種類の訓練試行を行う。記銘手がかりに続けては比較刺激を提示したテストを行うが,忘却手がかりに続けては,記憶テストを行わない。以上の訓練の後,忘却手がかりに続けて比較刺激を提示する“プローブテスト”を行う。
 ヒトの手続きでは1試行で複数の項目を提示するのに対して,動物では1試行において1つの項目しかテストしない。したがって,記憶負荷の小さい典型的な動物における指示忘却手続きは,忘却項目から記銘項目への記憶資源再配分の利点が少ないといえる。
 それでは,ヒトにおいても記憶負荷が小さい場合には,選択的なリハーサルによる記憶資源再配分は行われないのだろうか? 本研究は,単語数の異なる2種のリストを用いた指示忘却手続きにより,記憶負荷の大小に応じて,ヒトが記憶資源の再配分を柔軟に制御するのかを検討することを目的とした。

 方法
 参加者 大学生25人(平均19.76歳,SD 1.16)が参加した(2019年5月14日現在)。12人を長リスト群に,13人を短リスト群にランダムに振り分けた。
装置と刺激 液晶ディスプレイ上に刺激を提示した。白い背景に黒い文字の刺激をディスプレイの中央に提示した。単語親密度が6.0以上のひらがな3音節の名詞を使用した。同一のカテゴリに含まれる語で1つのリストを作成し,7種のリストを使用した。6つは訓練に,1つはテストに用いた。
 手続き 単語と指示手がかりを系列提示した。単語を750 msecのあいだ提示した後,250 msecのブランクに続けて,記銘手がかりあるいは忘却手がかりのどちらか一方を2500 msecのあいだ提示した。その後,500 msecのブランクのに続けて,次の単語を提示した。提示する単語数は,長リスト群は8単語(記銘4単語,忘却4単語)であり,短リスト群は4単語(記銘2単語,忘却2単語)であった。すべての単語の提示後に,訓練試行では記銘手がかりを提示した単語についての再生テストを行った。訓練試行は6回行った。第7試行のプローブテストでは,両群ともに6単語のリスト(記銘3単語,忘却3単語)を使用した。すべての単語の提示後に,記銘手がかりと忘却手がかりにかかわらず,提示したすべての単語についての回答を求める再生テストを行った。

 結果と考察
 長リスト群と短リスト群の記銘項目と忘却項目それぞれの再生成績について,図1に示した。項目の種類(記銘項目・忘却項目)×リストの長さ(長リスト・短リスト)の2要因分散分析を行ったところ,項目の種類については有意な差が認められたが(f(1, 23)=71.12, p< .001),リストの長さと項目の種類に交互作用は認められなかった(f(1, 23)= 1.85, p> .05)。一方で,短リスト群のほうが,記銘項目と忘却項目の差の絶対値が小さかったことから,差は顕著ではないものの,記憶負荷が小さい場合には記憶負荷が大きい場合ほどには記憶資源の再配分を行わないという予測と合致する傾向が認められた。参加者数を増やすとともに,短リスト群の記憶負荷をより小さくすることによって,記憶資源再配分の柔軟な制御についてさらに検討する必要がある。

キーワード
指示忘却/記憶負荷/記憶資源再配分


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