発表

2C-043

日常場面における時間ベースの展望記憶課題とメタ認知(6)
―課題の重要性と展望記憶の関係性―

[責任発表者] 宇根 優子:1
1:早稲田大学

目 的 展望記憶(Prospective Memory:以下PM)とは,将来意図した行為を適切な時機に想起し,実施するための記憶である。近年,将来の出来事を実際に経験するかのように想像するエピソード的未来思考(Episodic Future Thinking:以下EFT)がPM遂行を促進することが明らかになってきた(Neroni, et al, 2014)。一方,宇根(2018)ではEFTによる日常場面でのPM課題への影響が見られなかった。しかし4日間のPM課題全体に対してPM遂行時のEFTを遂行するよう求めたため,実際にPMが遂行される各日の状況と実験参加者が回答したEFTとの差異が大きくなった可能性,あるいは各日のEFTにおけるイメージ可能性が損なわれている可能性が考えられる。
 そこで本研究では,1日ごとにEFTを行わせ,EFTが予測またはPMに影響を及ぼすかどうかを探索的に検討した。

方 法実験計画 EFTあり群またはEFTなし群の1要因2水準の参加者間計画であった。
実験日時 2018年11月19日から23日にわたって実施された。事後調査は2018年11月26日に行われた。
実験参加者 大学学部生48名が参加した(EFTあり群24名,EFTなし群24名)。平均年齢は19.4歳(SD0.72歳)であった。
実験装置 PM課題には実験参加者各人が所持するスマートフォン,あるいはPCを用いた。また,事前調査,PM課題および事後調査にはGoogle Formを用いた。
手続き まず実験参加者にPM課題として,教示日翌日からの4日間,指定されたGoogle Formのページで1日に1回特定の番号を入力するよう教示した。実験参加者はPM課題の教示後,Google Formで日本語版MWQ(梶村と野村, 2016)を回答した。次に,EFTあり群はPM課題を遂行する4日間の各日において,EFTとして「番号を入力する課題を行う状況はどんな状況か想像してみてください。その状況はどういう状況かを回答してください。」という質問に自由記述で回答し,EFTの鮮明性としてどの程度EFTが鮮やかに想像できたかを5段階で評定した。さらに当該日のPM課題の遂行に成功するかどうかを予測した。EFTなし群ではEFTに関わる教示はなく,PM課題遂行期間の1日ごとに成功するかを予測した。最後に,両群とも課題が実験参加者にとってどの程度重要かを5段階で評定した。教示日から1週間後に事後調査が行われた。

結 果 EFTの有無による差については,MWQ(EFTあり群:M=18.04,SD=4.35; EFTなし群:M=18.25,SD=3.94),PM課題成功数(EFTあり群:M=2.04, SD=1.59;EFTなし群:M=1.92, SD=1.63),成功予測数(EFTあり群:M=2.96, SD=1.51; EFTなし群:M=2.79, SD=1.58),課題の重要性(EFTあり群:M=2.67,SD=1.03; EFTなし群:M=2.75,SD=0.88),成功予測の合計数(EFTあり群:M=2.96, SD=1.51; EFTなし群:M=2.79, SD=1.58),予測の正答率(EFTあり群:M=0.60,SD=0.37; EFTなし群:M=0.53,SD=0.39)のいずれも有意ではなかった。
 なお成功予測数とPM課題成功数の差がEFTあり群では有意,EFTなし群では有意傾向であった(EFTあり群:t(23)=2.58, p=.008, EFTなし群:t(23)=2.03, p=.054)。
 EFTの有無を込みにして,MWQ,課題の重要性,成功予測数,PM課題成功数の各変数の間で相関がみられるかどうかを検討したところ,課題の重要性と成功予測数の相関が有意であった(r=0.45, p=.001)。また成功予測数とPM課題成功数の相関には有意傾向が見られた(r=0.28, p=.051)。一方,課題の重要性とPM課題成功数の相関は有意ではなかった(r=0.14, p=.33)。
 EFTあり群でEFTの鮮明性(M=3.04, SD=1.03)と上述の変数間で相関を算出したところ,いずれも有意ではなかった。

考 察 本研究の結果,EFTを遂行することによるPMへの影響は見られなかった。EFTを行うことでPM課題についてより深く処理し,EFTの鮮明性が強い方がPM課題表象の精緻化に有益であると仮定するならば,鮮明性の高いEFTを行うことでPM課題表象の符号化時の処理が深くなると考えられるが,本研究ではEFTのPMへの効果が見られなかった。一方,Neroni, et al(2014)では,EFT課題において,PM課題を実施する前日に,PM課題遂行日について大学に来てから大学を出るまでを詳細に想像させており,今回の自然実験と比較すると,PM課題を遂行する状況が限定的である。したがって,EFTによるPMの促進には,EFTによって,実際のPM遂行状況が正しくシミュレートされる必要があると考えられる。
 次にPMのメタ認知的要素を検討すると,成功予測数が実際のPM成功数を上回っており,PM能力を過大評価したと推測される。成功予測数とPMでわずかな相関があったとはいえ,予測の正答率もほぼチャンスレベルであるため,日常的なPM課題での予測能力はあまり正確ではないと考えられる。一方,成功予測数と有意な相関が見られたのは課題の重要性であるため,PMの予測は一般的なPMに関するメタ認知より,課題に対する評価によって影響されたことが示唆される。

引用文献 Neroni, M. A., Gamboz, N., & Brandimonte, M. A. (2014). Does episodic future thinking improve prospective remembering?. Consciousness and cognition, 23, 53-62.

キーワード
展望記憶/予測/エピソード的未来思考


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