発表

2C-042

音楽の無意図的想起とマインドワンダリングの特徴比較
—日誌法を用いて—

[責任発表者] 鈴木 郁生:1
1:青森公立大学

目 的
 いつの間にか音楽が頭の中を流れているというように,音楽が意図せずに頭の中に浮かんでくる現象を音楽の無意図的想起と呼ぶ。また,例えば授業中に授業とは関係のないことを考えてしまっていることがある。これはマインドワンダリングと呼ばれる現象であり,その時に行っている作業や課題から意識が逸れ,異なる思考を行う現象を指す。これらは課題無関連な無意図的過程という共通点を持つ一方,音楽と思考という異なる過程に基づいており,その特徴を理解することは日常における無意図的な過程の理解を深めるのに有用だろう。Floridou & Müllensiefen(2015)は経験サンプリング,鈴木(2018)は質問紙によって両者の関連性について検討した。本研究は,日誌法を用いて音楽の無意図的想起とマインドワンダンリングの特徴について比較検討する。
方 法
被験者 大学生12人(男4名,女8名)。被験者の平均年齢は20.5歳(SD = 0.52)であった。
手続き 参加者は,音楽の無意図的な想起とマインドワンダリングが生じたときに,その状況や内容を記録するよう求められた。記録様式はGoogleフォームによって作成されており,参加者は自分自身のスマートフォンを通して記録を行った。記録期間はそれぞれ1週間であった。それぞれの記録期間中,無意図的な音楽ないし思考が生じた際,「日時」「曲名(思考内容)」「状況の種類」「きっかけ」「最後に耳にした(考えた)時期」を自由記述で,「邪魔だと感じた程度」「集中力の必要性」「ポジティブ気分の程度」「リラックスの程度」「集中の程度」「気を抜いていた程度」「精神的疲労度」を5段階で評定した。また,「耳(頭)から離れないかと感じたか」を2つの選択肢(感じた・感じなかった)で,「表現形式」を3つの選択肢(頭の中・声・その他[呼気等])で回答した。全ての記録が終了した後,参加者は音楽経験についての質問紙とマインドワンダリング質問紙に回答し,さらに曲(思考)の明るさ,その状況のルーチンワークの程度を5段階で評定した。
結果と考察
 音楽の無意図的想起の記録数は平均4.75で計57,マインドワンダリングの平均記録数は1.42で計17であり,音楽の無意図的想起の方が多く経験されることが示唆された。
 記録された時刻を6〜12時,12時〜18時,18時〜24時,24時〜6時の4つに区分した。結果,音楽の無意図的想起とマインドワンダリングはいずれの時間帯においても出現しており,χ2検定において有意な違いは認められなかった。
 無意図的な音楽あるいは思考が「頭を離れない」と感じられた頻度は,音楽で約51%,思考で約71%であり,半分以上の記録で「頭から離れない」と感じていることが示された。また,直接確率計算による分析を行った結果,音楽とマインドワンダリング間に有意差は認められなかった。
 無意図的な音楽・思考を「邪魔」と感じたかの評定値に対し分散分析を行った結果,マインドワンダリング(平均2.18)に比べ,音楽の無意図的想起(平均1.39)は邪魔だと感じられていないことが示された(F(1, 72) = 8.19, p<.01)。
 集中力の必要性に対する評定値を分散分析した結果,音楽(平均1.82)よりもマインドワンダリング(平均3.29)が生じた状況の方が,集中力を要する傾向が高いことが示された(F(1, 72) = 12.59, p<.01)。状況に対するルーチンワーク評定は,音楽で平均3.79,マインドワンダリングで平均3.29であり有意差は認められなかった。
 気分に関連する評定値について,それぞれ分散分析を行った。その結果,ポジティブ気分についての評定は,音楽(平均3.18),マインドワンダリング(平均2.65)間で有意傾向であった(F(1, 72) = 2.86, p<.10)。リラクックス評定は音楽(平均3.82)とマインドワンダリング(平均3.00)間に有意な差が認められた(F(1, 72)=5.92, p<.05)。つまり音楽の無意図的想起が生じた際の気分は,マインドワンダリングに比べリラックスしていることが多い。集中度評定に関しては,音楽(平均1.96)とマインドワンダリング(平均2.47)間に有意差はなかった。気を抜いていた程度に関する評定も音楽(平均3.70)とマインドワンダリング(平均3.18)間に差は認められなかった。精神的疲労度の評定においては,音楽(平均2.56)よりもマインドワンダリング(平均2.94)の方が高く(F(1, 72) = 4.02, p<.05),マインドワンダリングの方が精神的に疲労している時に生じることが示唆された。これらの結果から,マインドワンダリングに比べ,音楽の無意図的想起は認知負荷が低い時に生じがちであると考えられる。
 音楽の無意図的想起が出現したときのポジティブ気分は,曲の明るさと有意な正の相関(r = 0.46,p <.01)があったが,リラックス評定とは相関が認められなかった。マインドワンダリングが生起したときのポジティブ気分は,それ自体の明るさ及びリラックス気分と有意な正の相関(r = 0.48, p <.05; r=0.60, p<05)が認められた。こうした結果は,気分一致効果によるものと考える事が出来る。
 以上のように,音楽の無意図的想起とマインドワンダリングには,同じ無意図的な活動であるにもかかわらず,幾つかの特徴の違いが見出された。ただし記録数が少ないため,今後更にデータを収集する必要があるだろう。
引用文献
Floridou, Georgia A., & Müllensiefen, Daniel. (2015). Environmental and mental conditions predicting the experience of involuntary musical imagery: An experience sampling method study. Consciousness and Cognition, 33, 472-486.
鈴木郁生 (2018). 音楽の無意図的想起とマインドワンダリング傾向の関連性に関する検討 東北心理学会第72回大会.

キーワード
音楽/無意図的想起/マインドワンダリング


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