発表

2C-041

記憶の意図的な抑制による創造的問題解決の促進

[責任発表者] 西山 慧:1,2
[連名発表者・登壇者] 新谷 夏海#:1, 齊藤 智:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

問題・目的
忘却を支える抑制機能は,目の前の課題に集中したり精神的な健康を維持したりするために重要な機能であると考えられている(Nørby, 2017)。近年では抑制機能が創造的問題解決においても重要であることが示唆されている(e.g., Storm & Angello, 2010)。問題解決を妨害する記憶表象(以下,妨害項目)が抑制されることで解決に至ることができるからである。Angello, Storm, and Smith(2015)は,Think/No-Thinkパラダイム(Anderson & Green, 2001)を用いて単語完成課題の妨害項目を抑制することで,その正答数が上昇することを示した。本研究では,より代表的な創造的問題解決課題であるRemote Associates Test(RAT; Mednick, 1962)において,妨害項目の抑制がその成績が向上するかどうかを検討した。 Angelloら(2015)に基づき,RATの成績は,妨害項目が抑制されなかった問題,抑制された問題,妨害項目の学習が行われなかった問題の順に高くなると予想された。

方法
実験参加者 大学生32名(男性14名,平均年齢 = 21.2 ± 1.18)が実験に参加した。
要因計画 1要因参加者内計画であった。要因はTNT処遇条件でNo-Think, Baseline, Newの3水準であった。No-Think条件は妨害項目が学習された後にTNT課題において抑制される条件である。Baseline条件は妨害項目が学習されるだけの条件である。New条件は妨害項目が実験を通して提示されない条件であった。
実験刺激 日本語版RAT(寺井・三輪・浅見, 2013)から20問が使用された。使用された問題は予備実験において妨害項目を学習したことによる妨害効果の大きい問題であった。TNT課題では,手がかり語と標的語からなる60個の単語ペアが使用された。各ペアを構成する単語の内,手がかり語は文字単語親密度の高い単語で,標的語はRATで提示される計60語の妨害項目であった。
手続き 実験は4つの段階(学習,プレ再生テスト,TNT課題,RAT, ポスト再生テスト)で構成された。学習段階は2つの課題で構成される。まず,実験参加者はRATの妨害項目を含む単語ペア45個および妨害項目を含まない単語ペア5個を提示され学習した。次に,参加者は単語ペアの手がかり語が提示され,対応する標的語を解答するように求められた。解答あるいは5秒経過後,その正誤にかかわらずフィードバックとして標的語が提示された。正しく解答できなかったペアは解答できるまでこれを繰り返した。
  プレ再生テストで学習直後の記憶成績が評価された後,参加者はTNT課題を行った。参加者は手がかり語を提示され,その提示色が緑の場合には標的語を想起(Think)し,赤の場合には想起しないようにした(No-Think)。特に,想起の抑制の方略として直接抑制(e.g., Bergström et al., 2008)が教示された。妨害項目を含まない5つのペアを用いて課題の練習を行った後,RATの妨害項目を含む45ペアの内30ペアを用いて本試行が実施された。15ペアずつがThink条件,No-Think条件に割り当てられ,想起・抑制が12回ずつ繰り返された。残りの15ペアはBaseline条件に割り当てられ,TNT課題を通して全く提示されなかった。
  TNT課題の直後,RATが実施された。参加者は3つの漢字および空の正方形が提示され,それぞれの漢字と組み合わせることで熟語を作ることができる漢字1文字を答えるように教示された。同時に「事前に学習した単語が解答のヒントになる可能性がある」と教示された(Angelloら, 2015, Experiment 2)。2問の練習の後,20問の本問題に取り組んだ。
  最後に実験参加者は,ポスト再生テストを行いTNT課題後の記憶成績が評価された。

結果
RATにおける各条件の平均正答数を図1に示した。正答数に対して参加者内1要因の対比分析を実施した。仮説に従って,各水準の対比係数を-1, 0, 1 (それぞれBaseline, No-Think, New)とした。分析の結果,条件の主効果が有意であり (F(1, 63) = 10.69, p = 0.002, MSE = 0.91),Baseline, No-Think, Newの順に正答数が上昇することが示された。

考察
結果より,妨害項目を意図的に抑制することによって創造的問題解決が促進されることが示された。創造性と抑制機能に関する研究は,抑制機能の個人差と創造性課題の成績の関連を示すのみにとどまっている(e.g., Storm & Angello, 2010)。一方で,本研究は,個人内において抑制機能が創造的問題解決を向上させることを示した点において大きな理論的意義があるといえる。

キーワード
想起の抑制/創造的問題解決/Think/No-Think


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