発表

2B-057

洞察問題解決の学習と転移

[責任発表者] 渡邊 兼行:1
1:仙台白百合女子大学

 Auble, Franks, & Soraci(1979)は,一読して理解し難い文を提示し,それに続いて理解を可能とするキーワードを提示した場合,あらかじめキーワードが文中に埋め込まれていた場合に比べ,後のその文の再生がよいことを示した。彼らは,この現象の解釈の一つとして,理解できない文がキーワードによって理解できるようになったことによるアハ体験が,記憶を促した可能性を論じ,このような現象をアハ効果と呼んだ。
 本研究では,洞察問題解決を用いて,そのようなアハ効果が問題解決の記憶においても生じるかを検討した。様々な洞察問題解決のうち,本研究ではTパズル(鈴木, 2001)を使って,それを解く作業がのちの解法の記憶を促進するか,似たようなパズルの解法に転移するかを調べた。
方法
実験参加者
 40名の大学生が実験に参加し,19名がヒントあり群,21名がヒントなし群に割り当てられた。
材料
 作成する図形として,Tパズルの4つのピース(Figure 1)による規則的な図形が9種類用意され,学習用図形6種類とテスト用図形3種類に分けられた。学習用の6種類の図形については,アハ体験の程度を操作するため,ピースの配置の明示の程度によってヒントあり群とヒントなし群の2群の提示用の図形が用意された(Figure 2)。
 学習用として,2種類のファイルを用意し,1種類はヒントあり群の図形を,残りの1種類はヒントなし群の図形を印刷したA4版のカードを綴じた。また,テスト用のファイルも,学習用図形からの3種類(既出図形)とテスト用の3種類の新規図形で構成し,いずれもピースの配置の明示をしない形で印刷された。
 さらに,以下の5項目について尋ねる質問紙を用意した。「Q1.パズルを完成できたか?」,「Q2.難しく感じたか?」については,「1:はい」・「0:いいえ」の2択で回答させ,「Q3.正答に納得できたか?」,「Q4.正答にスッキリしたか?」,「Q5.正答は意外だったか?」の3問については,「1:全然そう思わない」~「5:とてもそう思う」の5段階で回答させた。
手続き
 実験は,3つの段階で行われた。学習段階では,学習用ファイルに提示されたパズルを完成することが求められ,制限時間として2分間が与えられた。制限時間後,参加者は正解の配置を示され,不正解や未完成の場合には,ピースを正しく配置するように指示され,手元の質問紙に答えた。この流れを6種類の図形で繰り返した。
 続いて3分間の計算問題の後,テスト段階では,参加者は学習段階と同じようにテスト用ファイルに示された図形を作成する2分間のパズル課題を6題行った。2分経過後に正解の配置を見て確認・再配置すること,その後質問紙に答えることも,学習段階と同様であった。テスト段階では,パズルのうち3つは学習段階で提示された既出図形,残りの3つは新規図形であった。
結果と考察
 学習段階とテスト段階における質問紙について,参加者ごとに各項目の平均値を求め,群ごとにその平均値を算出してTable 1にまとめた。テスト段階の結果については,既出図形の3図形に関するものと,新規図形の3図形に関するものに分けた。まず,学習段階において,Q1とQ2に大きな群間の差が見られた。これは,ヒントなし群の方が正解し難く,また主観的な難易度も高いということを示している。続いて,Welchのt検定によって,テスト段階における各項目に対しての2群の回答の差を検定したところ,既出図形についてQ1とQ2に有意な差が見られ(t(37.8) = 2.70, p =.01, d = .85; t(29.0) = 2.84, p = .008, d = .87),また,新規図形については有意な傾向が見られた(t(37.8) = 1.98, p =.055, d = .62; t(34.1) = 1.94, p = .061, d = .60)。これは,ヒントなし群において洞察問題の解法が学習され,それが別の図形の解法にも転移している可能性を示している。学習段階におけるQ5に群間で有意な差が見られたことから(t(36.7) = 5.12, p < .001, d = 1.63),主観的に体験する正解の意外性がアハ体験につながり,上述の学習や転移につながった可能性が考えられる。
引用文献
Auble, P. M., Franks, J. J., & Soraci, S. A. (1979). Effort toward comprehension: Elaboration or “aha”? Memory & Cognition, 7, 426-434.
鈴木宏昭(2001). 思考と相互作用 乾敏郎・安西祐一郎(編) 認知科学の新展開2 コミュニケーションと思考 岩波書店 pp. 163-201.

キーワード
洞察問題/学習/転移


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