発表

2B-054

自伝的記憶における成功感と失敗感の時間的変化

[責任発表者] 永松 基記:1
[連名発表者・登壇者] 中島 健太#:1, 岩田 沙恵子:1,2, 月浦 崇:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会特別研究員

 目 的
 自伝的記憶に関する情動価は時間経過とともに変化し,ネガティブな出来事と結びついた感情の強さは,ポジティブな出来事よりも早く減弱することが知られている (Walker, Vogl, & Thompson, 1997)。しかし,失敗や成功の自伝的記憶における感情が,出来事を経験してからの時間経過によってどのように変化するのかについては理解が進んでいない。本研究では,この点について実験心理学的に検討した。

 方 法
実験参加者 健常な京都大学の学生18名(女性8名,平均年齢21.22歳,標準偏差1.44)が本研究に参加した。実験参加者は,自尊感情を評価するRSES-J (Mimura & Griffiths, 2007),性格特性を評価するNEO-FFI (下仲・中里・権籐・高山, 1999)などの複数の心理検査に回答した。実験参加者には,京都大学人間・環境学研究科人間情報実験倫理委員会に事前に承認を得た実験計画に則して,研究内容および倫理面,安全面についての説明が行われ,実験参加への意思が書面によって確認された。
刺激 先行研究 (杉村・栗山, 1972)から具体名詞40個が選択され,リスト間で心像性が統計的に等しくなるように10個ずつ4リストに分割された。このうち2リストが後述する成功体験の想起課題に,残り2リストが失敗体験の想起課題に手がかり語として用いられた。
実験手続き 実験参加者は,4ランから構成される自伝的記憶の想起課題を実施した。成功体験と失敗体験の想起はランごとに交互に行われ,各2回ずつ異なる手がかり語を用いて行われた。各ランでは,10個の手がかり語がランダムに提示され,そこから連想できる成功または失敗の自伝的記憶を口頭で再生するように求められた。自伝的記憶を想起できた場合には,これらの出来事に関する成功感/失敗感,覚醒度,感情価,重要度,原因帰属について,体験した当時と現在の視点でそれぞれ9段階で評価した。

 結 果
 各評価項目に対して,想起条件(成功・失敗)と時間(当時・現在)を要因とする2要因分散分析を行った。その結果,成功感/失敗感の評定値について有意な時間の主効果[F(1,15) = 107.87, p < .01]と交互作用[F(1,15) = 6.34, p < .05]が認められ,成功体験と失敗体験における成功感と失敗感は,いずれも当時より現在で有意に低かった(p < .01;図1a)。また,成功感/失敗感の時間的変化値(現在の評価値-当時の評価値)を対応のあるt検定によって比較したところ,失敗感の時間的変化値は成功感と比較して有意に大きかった[t(15) = 2.60, p < .05]。成功感と失敗感の時間的変化値と他の項目の時間的変化値との間の相関解析(ピアソン)では,成功感と重要度の間の相関が有意であった(r = .62, p < .01;図1b)。成功感/失敗感の時間的変化値とRSES-J,NEO-FFIの下位項目の間の相関解析では,失敗感の変化値とRSES-Jの得点(r = -.68, p < .01;図1c),NEO-FFIの誠実性の得点(r = -.52, p < .05; 図1d)との間に有意な負の相関が認められた。

 考 察
 本研究の結果から,自伝的記憶における成功感や失敗感は時間の経過に伴って小さくなるが,そのような時間依存的な感情の変化は成功感と失敗感の間で異なっていることが示唆された。また,社会的特性や性格特性の個人差によって,失敗感の時間的変化の大きさは影響を受けることも示唆された。

  引用文献
Mimura, C., & Griffiths, P. (2007). A Japanese version of the Rosenberg Self-Esteem Scale: Translation and equivalence assessment. Journal of Psychosomatic Research, 62, 589-594.
下仲 順子・中里 克治・権籐 恭之・高山 緑 (1999). NEO-PI-R NEO-FFI 共通マニュアル 東京心理株式会社.
杉村 健・栗山 広治 (1972). 刺激の具体性と心像性 奈良教育大学紀要 (人文・社会科学), 21, 223.
Walker, W. R., Vogl, R. J., & Thompson, C. P. (1997). Autobiographical memory: Unpleasantness fades faster than pleasantness over time. Applied Cognitive Psychology: The Official Journal of the Society for Applied Research in Memory and Cognition, 11, 399-413.

 謝辞
*本研究の一部は,JSPS科研費JP16H01727の助成を受けて実施された。

キーワード
成功感/失敗感/自伝的記憶


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