発表

2A-062

顔と名前の連合学習における文脈の変化が後の想起に与える影響

[責任発表者] 長 美希:1
[連名発表者・登壇者] 勝見 梓:1, 月浦 崇:1
1:京都大学

 目 的
ヒトの記憶過程において,時間や場所の文脈情報は重要である(Tulving, 1972)。先行研究では,記銘時と想起時の文脈が異なることによって,記憶の想起過程が抑制的な影響を受けることが示されている(Smith & Vela, 2001)。しかしながら,記憶の学習中に時間や場所の文脈が変化することによって,後の記憶の想起がどのような影響を受けるのかについては,これまでにほとんど明らかになっていない。本研究では,顔と名前の連合学習過程における時間や場所の文脈の変化が,後にその連合記憶を想起する際にどのような影響を与えるのかについて,実験心理学的に検証した。
 方 法
実験参加者 健常大学生22名(女性11名,平均年齢:20.68歳,標準偏差:1.29)が本研究に参加した。実験参加者には,京都大学大学院人間・環境学研究科人間情報実験倫理委員会に事前に承認を得た実験計画に則して,研究内容および倫理面,安全面についての説明が行われ,実験参加への意思が書面によって確認された。
刺激 顔刺激として,オリジナルに作成された顔刺激データベースから男女の顔写真80枚,名前刺激として,名字由来net(https://myoji-yurai.net/prefectureRanking.htm)から漢字2字の名前(名字)160個が選択された。名前は80個ずつ2リストに分割され,一方は学習課題で顔写真と連合されるターゲット刺激として,もう一方は想起時のディストラクター刺激として使用された。これらの名前のリストは顔写真とランダムに組み合わされ,顔と名前のペアのリストが作成された。背景写真の刺激として,京都市内の2つの場所でそれぞれ同じアングルで昼間と夜間に撮影された4枚の風景写真が準備された。
実験手続き 学習課題では,実験参加者は4ランを通して同一の顔と名前のペアがランダムに提示され,顔と名前のペアがどれだけ相応しいのかを4段階で判断するように求められた。1ランから3ランを通して,各ペアには同一の風景写真が背景として用いられたが,4ラン目では,4つの条件ごとに異なる種類の背景写真が用いられた。「時間-場所-」条件では,背景写真の時間と場所の両方がそれまでのランから変化せず,「時間+場所-」条件では背景写真の時間のみが変化し,「時間-場所+」条件では背景写真の場所のみが変化し,「時間+場所+」条件では背景写真の時間と場所の両方がそれまでのランから変化して提示された。記銘課題の直後に行われた想起課題では,実験参加者はターゲットとディストラクター各80枚の顔写真がランダムに提示され,学習時に顔とペアで提示されていた名前を3つの選択肢(Intact,Recombined,New)から再認することが求められた。想起課題終了後,実験参加者は背景写真の時間や場所が変化した刺激があったことに気がついたかについて回答した。
 結 果
背景写真の変化に気がついた群(気づきあり群)と気がつかなかった群(気づきなし群)のそれぞれで,名前を正しく再認できた率(Hit率)について,時間[変化なし(-),変化あり(+)]と場所[変化なし(-),変化あり(+)]を要因とする2要因分散分析(実験参加者内)を行った。その結果,気づきあり群では有意な場所の主効果[F(1,10) = 5.90,p < .05]が同定され,場所の文脈が変化した場合に変化しなかった場合と比較してHit率が有意に低下することが認められた。しかし,時間の主効果[F(1,10) = 0.40,p = .54],時間と場所の交互作用[F(1,10) = 0.40,p = .54]は有意ではなかった(図1)。気づきなし群では,時間の主効果[F(1,9) = 1.81,p = .21],場所の主効果[F(1,9) = 0.01,p = .93],時間と場所の交互作用[F(1,9) = 0.12,p = .74]は,いずれも有意ではなかった。
 考 察
本研究の結果から,学習過程における文脈の変化が後の記憶の想起を抑制する効果は,学習過程における文脈の変化が意識された場合に限定して生起することが示唆された。また,記憶学習時の文脈変化による記憶想起への抑制効果は,場所文脈のように具体的情報が変化する場合には有効である一方で,時間文脈のように抽象的情報が変化する場合には有効ではないことが示唆された。
  引用文献
Smith, S. M., & Vela, E. (2001). Environmental context-dependent memory: a review and meta-analysis. Psychon Bull Rev, 8(2), 203-220.
Tulving, E. (1972). Episodic and semantic memory. Organization of memory, 1, 381-403.
 謝 辞
本研究の一部は,JSPS科研費 JP18H04193の助成を受けて行われた。

キーワード
顔と名前の連合/文脈変化/記憶


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