発表

1D-058

継時的想起における後期高齢者の自伝的記憶の安定性

[責任発表者] 田中 京子:1
[連名発表者・登壇者] 園田 直子:2
1:久留米大学比較文化研究所, 2:久留米大学

目 的
 過去の出来事に対して意味づけや評価を行う過程は,自伝的推論(autobiographical reasoning)と呼ばれる。自伝的推論とは,人生の諸要素を互いに結びつけたり,それらと現在の自己を結びつけること(結びつきを考えたり話したりすること)であり(Bluck & Habermas,2000),出来事と出来事,出来事と自己を結び付け,出来事の意味を解釈したり,ライフヒストリーを構成し自己の一貫性を確認するのに不可欠な過程である(佐藤,2008)。
 田中・園田(2016)は,手がかり語法により思い出を語ってもらった結果,語りの中に自伝的推論を伴う語り(以下,自伝的推論語り)が見出され(推論者の割合:中年者39%,前期高齢者53%,後期高齢者82%),高齢になるほど自伝的推論を行うことが示唆された。加齢に伴う自伝的記憶の安定性について,高田他(2004)は,高齢者は同じエピソードを繰り返し再生する傾向があるという。また,後期高齢者や超高齢者の自伝的推論語りを伴う記憶は,伴わない記憶よりも重要であり鮮やかに繰り返し想起された記憶であった(田中・園田,2018)。
 そこで,本研究では,繰り返しの自伝的記憶の想起やそれに伴う自伝的推論の特徴を探る。同じ内容の自伝的記憶が想起されるのかどうか,自伝的記憶に自伝的推論がどのように伴うのかを明らかにするために,後期高齢者に継時的に過去の出来事を想起してもらい,自伝的記憶の安定性と自伝的推論の再現性について検討した。
方 法
調査参加者 2012年に調査した高齢者のうち2016年にも調査に参加した後期高齢者7名(M=84.3,SD=3.69)。
調査期間 調査は2回行った。1回目は2012年2月から6月まで,2回目は2016年10月から11月までであった。
手続き 想起手がかり語は,1回目も2回目も12個用いた(例:花,海)。個別に手がかり語から想起された出来事とその時期の年齢を尋ねた。手がかり語は参加者ごとにランダムに呈示した。2回目も1回目と同様の手続きで実施した。
分析対象 1回目と2回目におい手がかり語の一部が異なった。そのため,1回目と2回目とで共通する手がかり語で想起された自伝的記憶を分析対象とした。
分析方法 参加者ごとに,同一手がかり語によって想起された出来事の内容が同じかどうか,自伝的推論を伴っているかどうか,自伝的推論を伴う場合は自伝的推論がどのように出現したかである。なお,自伝的推論の判定は,「自伝的推論の整理と対応する項目例」(佐藤,2014)を参考にした。
結 果
 参加者ごとに,同一手がかり語において同じ自伝的記憶が想起されたかをtable1に示している。2回の調査において一部内容が同じ自伝的記憶が想起されたが,半数以上は異なる自伝的記憶が想起されており,自伝的記憶の安定性は低いといえる。
 また,table2は,想起された自伝的記憶の同一性と自伝的記憶に伴った自伝的推論の再現性をまとめたものである。自伝的推論の再現性については次の5つに分類した。自伝的推論が再現された場合は「再現」,自伝的推論が異なった場合は「変化」,1回目の自伝的推論が2回目にはみられなかった場合は「消失」,1回目にはみられなかった自伝的推論が2回目に加わった場合は「付加」,1回目も2回目も自伝的推論がみられなかった場合は「無」である。
 1回目と2回目に同一内容を想起し,しかも自伝的推論も再現された自伝的記憶はわずかであった。さらに,同一内容か否かにかかわらず,自伝的推論が変化したり,消失したり,2回目に新たに加わったりしており,自伝的推論の再現性は低いことが示唆された。
考 察
 同じ手がかり語を用いて想起された自伝的記憶の中には,年月を経ても変わらず保持されるものと変化していくものがあることがわかった。また,自伝的推論の観点からみると,1回目にはみられなかった自伝的推論が2回目には付加されたり,2回目には1回目とは異なる自伝的推論が出現していたことから,自伝的記憶の想起には自伝的推論という認知処理過程を通じて過去の経験の意味づけ直しや再評価が繰り返し行われているのではないかと考えられる。

キーワード
後期高齢者/自伝的記憶/継時的想起


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