発表

1D-057

既知顔と合成顔の弁別における言語陰蔽効果の予備的検討

[責任発表者] 波多野 文:1,2
[連名発表者・登壇者] 繁桝 博昭:3
1:京都大学, 2:日本学術振興会, 3:高知工科大学

目 的
 我々は,自分の経験を整理したり,他者に伝達したりする際に言葉を利用する。しかし,記憶を言語化することが,かえって記憶に悪影響を及ぼす事がある。このような現象は言語陰蔽効果と呼ばれている(Schooler & Engstler-Schooler, 1990)。先行研究では,主に未知顔の言語化が後の再認課題に及ぼす影響が検討されており,有名人などの既知顔を言語化した場合でも言語陰蔽効果が生じるかはあまり検討されていない。しかし,顔の再認において,既知顔と未知顔では記憶成績や反応時間,脳の活動パタン等が異なると指摘されており (Gobbini & Haxby, 2007),既知顔と未知顔では言語化の影響も異なる可能性がある。本実験では,有名人の顔を言語化した場合に言語陰蔽効果が生じるかについて,予備的な検討を行った。また,通常の言語陰蔽効果実験は単一試行での実施が一般的だが,先行研究では複数試行実施することで言語陰蔽効果を安定して観察できる可能性が指摘されている (Hatano, Ueno, Kitagami, & Kawaguchi, 2015)。また,複数試行が可能になれば,fMRI等を用いた脳活動の測定にも対応できる。それゆえ,本研究では複数試行の実験パラダイムによって言語陰蔽効果を安定して観察する手続きの構築も目的として検討を行った。

方 法
 実験参加者 大学生10名が実験に参加した(平均年齢20.9歳,SD = 0.99)。すべての参加者が1週間おきに統制条件と言語化条件に参加した。
 材料 日本の芸能人,スポーツ選手の顔写真30枚と,それぞれの顔写真を別人の顔と合成した顔写真30枚を使用した。合成にはWinMorphを使用し,合成の比率は本人が75%となるようにした。写真はすべてグレースケールで呈示した。実験では15枚ずつ使用され,どの刺激が呈示されるかは参加者間でカウンターバランスをとった。
 手続き 参加者はまず10名の有名人の名前を一つずつ呈示された。言語化条件では,参加者はそれぞれの名前について,該当する有名人の顔の特徴(目,鼻,口)を想起して入力した。言語化にかける時間はそれぞれの名前について1分間とし,時間が経過すると自動的に次の名前が呈示された。統制条件では,同様の時間呈示された名前の示す有名人の顔をイメージするように求められた。名前の呈示が終了すると,参加者は有名人本人の顔(ターゲット)と,本人と別人の顔を合成した顔(ディストラクタ)の画像30枚を呈示され,それぞれの画像が有名人本人か,よく似た別人かを判断するように求められた。さらに,本人判断の後,それぞれの画像の本人らしさを5段階で評定するように求められた。呈示画像には,参加者が言語化/イメージを行っていない有名人の顔画像とその有名人の合成顔の画像10枚が含まれていた。すべての画像についての判断が終了した後,判断課題で呈示された有名人の氏名が呈示され,それぞれの有名人に対する認知度,言語化のやりやすさ,好感度,イメージの鮮明度を7段階で評定した。

結果と考察
 参加者ごとに本人顔を本人と判断した割合(Hit率),合成顔を本人と判断した比率(False alarm率)を求め,それらの値からA’を算出し,本人同定課題の成績の指標とした(図1)。両条件の同定成績を比較した結果,言語化条件の同定成績が統制条件に比べ高かった。すなわち,本実験では言語陰蔽効果ではなく,促進的な効果が観察された。言語陰蔽効果をシミュレーションした先行研究では,顔を想起して言語化することで,記憶表象が言語ラベルの影響を受けて変化する可能性が示唆されている(Hatano et al., 2015)。有名人の顔を言語化することで本人に固有の特徴が強調される方向に変容したとすれば,言語化条件のほうがより他人に近い合成顔と本人顔の弁別が容易であり,このような結果が得られた可能性がある。今後は本人らしさを強調したカリカチュア顔も含めたディストラクタを作成し,言語化の影響を再度検討する予定である。

引用文献
Gobbini, M. I., & Haxby, J. V. (2007). Neural systems for recognition of familiar faces. Neuropsychologia, 45(1), 32–41.
Hatano, A., Ueno, T., Kitagami, S., & Kawaguchi, J. (2015). Why verbalization of non-verbal memory reduces recognition accuracy: A computational approach to verbal overshadowing. PLoS ONE, 10(6), e0127618.
Schooler, J., & Engstler-Schooler, T. (1990). Verbal overshadowing of visual memories: Some things are better left unsaid. Cognitive Psychology, 22(1), 36–71.

キーワード
言語陰蔽効果/顔再認/既知顔


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