発表

1B-056

小学4年生における過去の楽しい出来事と将来経験すると予想する楽しい出来事
予備的検討

[責任発表者] 上原 泉:1
[連名発表者・登壇者] 川﨑 采香:1
1:お茶の水女子大学

目 的
 過去形を使って過去の出来事を報告するようになるのは2歳頃からで(Uehara, 2015他),過去や将来に向けての時間認識が芽生えるのは,幼児期半ば以降といわれてきたが(Busby & Suddendorf, 2005他),過去や将来への認識(心理的時間)が言葉の発達とともにどのように発達してくるのか,その発達過程については,ほぼ検討されてこなかった。この発達過程の解明に主眼をおいた研究プロジェクトの1つとして,心理的時間を言語的に比較的正しく把握できるようになっていると思われる児童期に焦点をあて,過去や将来に対して,子どもがどのように認識しているのかを探る研究に着手した。本調査はその研究の1つであり,70名弱の4年生を対象に,過去や将来に関する作文や質問への回答をもとめた。この学会で,その調査結果の一部について報告する。

方 法
 都内の小学校1校に通う4年生の児童68名(男子27名,女子39名,性別無回答者2名)に,書くようにもとめた過去や将来に関する作文と関連質問への回答を分析対象とした。具体的には,対象児童に,過去経験した一番楽しかった出来事と将来経験すると予想する最も楽しい出来事に関する作文を(いつ,どこで,誰と何をした(する)のか等)書くようお願いし,また,過去を想起する頻度や将来を考える頻度を選択肢から選択すること,よく想起する過去の時期やよく考える将来の時期を記述することをお願いした。なお,本調査は,本学の人文社会科学研究の倫理審査委員会による事前の承認を得て行われた。

結 果
 過去の楽しかった出来事に関する作文より,将来経験すると予想する楽しい出来事に関する作文は短い傾向にあり,エピソード的な出来事の内容を書くようもとめたにもかかわらず,持続的な状況を書いた割合が,将来の出来事作文において(85%),過去の出来事作文において(27%)よりも有意に高かった(χ2 = 47.7, p <.01)。過去の一番楽しかった出来事の内容について,上原(2017)のカテゴリー分類基準を参考に分類したところ,全体の7割(72%)に家族への言及が含まれており,全体の6割(62%)が家族とのお出かけ・旅行に関する内容であった。将来経験すると予想する最も楽しい出来事の内容についてみると,将来の自分に関する事柄(47%)や自分の将来の職業(31%)の記述が占める割合が高く,次いで,友人との日常的事柄(25%)の記述が占める割合が高かった。過去の一番楽しかった出来事を経験した時期としては,「最近」や「小学3~4年時」,「持続して今まで」とする回答が多かったのに対して,よく想起する過去の時期は,「幼稚園の頃」(25%)とする回答が最も多かった。将来予想する最も楽しい出来事を経験する時期としては,「なし・不明」が2割強(24%)を占めるものの,若い成人期を想定していると思われる「大人・将来」(44%)とする回答の割合が最も高かった。よく考える将来の時期については「空欄・ない・わからない」とする割合が一番高かったが(33%),次いで「大人・20歳以上・20~30歳」(26%),「20歳,・大学」(16%)という回答の割合が高かった。過去を想起する頻度と将来を想像する頻度を4段階で評定するようもとめていたが(1:まったく思い出さない[考えない]~4:よく思い出す[考えない]),評定値間で有意な相関関係がみられ(r = 0.36, p <.01),評定平均値の差は有意傾向であったが(過去M = 2.99; 将来M = 2.74; t = 1.86, p <.1),評定値の分布に関しては有意差がみられた(χ2 = 10.9, p <.05)。過去を時々思い出す割合(評定値3:過去が50%なのに対して将来が28%)と,将来をまったく考えない割合(評定値1:過去が5%未満なのに対して将来が20%程度)が有意に高かった(残差分析でいずれもp <.01)。なお,時期を言及する際に,西暦や元号を使った表記,3年前といった表記は極めて少なく,3年生の時,4年の夏休み,幼稚園の時,4才の時といった表記が大方なされていた。

考 察
 時の表現の仕方が,成人とは異なる可能性が示唆された点が興味深い。また,過去の思い出には家族が高い割合で含まれるのに対して,将来経験するであろう出来事については,まったく考えられない児童もいるうえ,想像できるとしても,20歳頃,若い成年期の自分の状況や将来の職業が占める割合が高かった点は注目に値する。小学生ならではの過去や将来の認識の仕方が示唆されているものの明らかになっていない点もあり,今後他の学年も併せてさらにデータを蓄積し,児童期における心理的時間の在り様を引き続き検討していきたい。

引 用 文 献
Busby, J., & Suddendorf, T. (2005). Recalling yesterday and predicting
tomorrow. Cognitive Development, 20, 362-372.
Uehara, I. (2015). Developmental changes in memory-related linguistic skills and their relationship to episodic recall in children. PLoS ONE 10(9): e0137220.
doi:10.1371/journal.pone.0137220
上原 泉 (2017). 児童期以降の快-不快感情を伴う自伝的記憶―縦断的な事例データによる予備的検討―. お茶の水女子大学人文科学研究, 13, 135-150.

キーワード
小学4年生/自伝的記憶/心理的時間


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