発表

1B-054

物体表面の粗さの視覚性ワーキングメモリに関わる脳内機構

[責任発表者] 藤道 宗人:1,2
[連名発表者・登壇者] 津田 裕之:1, 山本 洋紀:1, 齋木 潤:1
1:京都大学, 2:日本学術振興会

目 的
 質感とは物体そのものがもつ表面の性質のことである。これまでヒトは質感を正確に知覚できることが示されてきた。そして近年になって,ヒトの質感認知は視覚記憶においても正確性が保たれることが明らかになった(Tsuda & Saiki, 2018)。こうした正確な質感の視覚記憶はどのような脳内機構によって支えられているのだろうか。Fujimichi et al.(2017)は課題の保持期間中の脳活動にマルチボクセルパターン解析(MVPA)を適用して,粗さと光沢感の視覚記憶表象が腹側高次視覚野と頭頂間溝で表現されていることを解明した。ところが,日常的な質感認知においては物体の粗さと光沢感を見分ける処理よりも,物体の粗さがつるつるしているのかざらざらしているのかのようなマグニチュード情報の処理の方がおこなわれるはずである。ところが質感のマグニチュード情報がどのような脳領域で記憶されているのかは不明である。
 そこで本研究では粗さに着目して,粗さのマグニチュード情報の保持に関連する神経基盤を明らかにすることを目的とする。Fujimichi et al.(2017)によれば質感の視覚記憶には腹側高次視覚野と頭頂間溝が関わると考えられる。他方で,MVPAを適用した視覚記憶研究では初期視覚野の関与も明らかになっている(Harrison & Tong, 2009)。そのため腹側高次視覚野と頭頂間溝に加え,初期視覚野も関心領域とすることで粗さの視覚記憶に関連する脳内機構を検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生24名が実験に参加した(女性8名,平均年齢22.0歳)。
課題 実験は京都大学こころの未来研究センターのMRIスキャナー(Siemens Verio 3T)および関連実験設備を用いて行った。撮像のパラメータは以下のように設定した(TR = 2000 ms, FOV = 224×224 mm, voxel size = 3.5×3.5×3 mm, slice number = 34 slices)。実験は記憶課題とローカライザー課題,そしてレチノトピー課題で構成された。記憶課題ではまず粗さの程度が異なる(つるつる‐ざらざら)2枚のサンプル球体画像を継時呈示した。保持すべき刺激は,2枚のサンプルの後に呈示される数字手がかりによって指示された。参加者は試行の最後に呈示されるテスト球体画像と保持した画像を比較して,粗さの程度が小さい(つるつるしている)画像を判断した。課題の1 runは4試行からなり,参加者1名あたり10~12 run(40~48試行)実施した。記憶課題終了後,関心領域を決定するためにローカライザー課題をおこなった。ローカライザー課題は顔や場所,物体,そして色に対して賦活する脳領域を特定するための課題であった。
腹側高次視覚野と頭頂間溝,初期視覚野の同定 ローカライザー課題の結果をもとに腹側高次視覚野と頭頂間溝を定義した。腹側高次視覚野は顔,場所,物体,色の処理を担う下位領域をそれぞれ同定した(p < .001, uncorrected)。頭頂間溝はローカライザー課題の顔条件の結果に基づいて同定した(p < .05, uncorrected)。また,第一次視覚野を解剖学的位置に基づいて同定した。
MVPAの適用 保持期間中の脳活動に対してMVPAを適用して,参加者がどちらのサンプルを記憶したのかを予測した。その予測成績を平均MVPA成績として算出した。
結果と考察
 課題の正答率がチャンスレベルを超えなかった4名のデータを除外した20名のデータを分析対象とした。各関心領域に対して保持期間の平均MVPA成績を算出した(図)。その結果,腹側高次視覚野の顔処理に関連する領域と頭頂間溝における平均MVPA成績がチャンスレベルより有意に高くなった(t(19) = 2.38, p < .05; t(19) = 2.23, p < .05)。
 本研究は,粗さの視覚記憶表象が初期視覚野ではなく腹側高次視覚野と頭頂間溝で表現されることを明らかにした。これは質感の視覚記憶に腹側高次視覚野と頭頂間溝が関わるという結果を支持するものである。一方で初期視覚野の関連は見られなかった。視覚記憶への初期視覚野の関与については見解が分かれており,初期視覚野の表象は干渉に弱いことがわかっている。さらに質感は物体形状や照明環境,輝度ヒストグラムの歪度など多次元の情報によって表現される。したがって質感のような複雑な刺激を記憶するために,より高次の領域が機能した可能性が考えられる。
引用文献
Fujimichi, M., et al. (2017). Neural substrate of objects’ material properties held in visual working memory. Poster Presentation at 47th SfN.
Harrison, S. A., & Tong, F. (2009). Decoding reveals the contents of visual working memory in early visual areas. Nature.
Tsuda, H., & Saiki, J. (2018). Constancy of visual working memory of glossiness under real-world illuminations. JOV.

キーワード
粗さ/視覚性ワーキングメモリ/fMRI


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