発表

1A-056

意図記憶における自己選択効果と選択規準
生存欲求規準と親和欲求規準の比較

[責任発表者] 豊田 弘司:1
1:奈良教育大学

問題と目的
 Nairneら(2007)以降,適応記憶という視点からサバイバル処理(本報では生存欲求処理)に基づく処理が他の符号化よりも有力であることが示されている。豊田(2016)は,自己選択効果の手続きにおいて,生存欲求規準とメタ記憶規準を比較し,前者が後者よりも自己選択効果の大きいことを示した。また,豊田(2017a)は,生存欲求規準と自己準拠規準の有効性に関して偶発記憶手続きを用いて比較し,生存欲求規準が自己準拠規準よりも自己選択効果の大きいことを明らかにしている。豊田・小林・平野 (2007)は,自由再生事態における自己選択効果が出現するか否かは,参加者の選択規準が明確であることが重要であり,選択規準が明確である場合に,選択された記銘語(選択語)が認知構造へ統合されやすいと解釈した。この統合仮説は,意図記憶手続きを用いたその後の研究(豊田・小林, 2006; Toyota, 2013)でも支持されている。Toyota(2016)は,Nairneら(2007)が主張する生存欲求処理がMaslow(1962)による欲求階層構造の最下層に位置することに注目し,欲求階層構造に対応する処理によって記憶が促進されるというモデルを提唱した。このモデルを支持する結果は,分散効果(豊田, 2017,2018)においては見いだされている。もし,このモデルが妥当であるならば,自己選択効果を検討する手続きにおいても,欲求階層構造の最下層に位置する生存欲求規準で選択した場合が,それより上層に位置する欲求規準で選択した場合よりも自己選択効果が大きいであろう。意図記憶手続きを用いた豊田(2017b)では,生存欲求規準と自己準拠規準(自己実現欲求と対応)を比較したが,自己選択効果の違いはなかった。本報では,生存欲求規準と親和欲求規準の比較によって,前者の規準で選択した場合が後者の規準で選択した場合よりも自己選択効果が大きいであろうという予想を検討する。
 方 法 実験計画 3(選択規準;自己選択・生存欲求規準,自己選択・親和欲求規準,強制選択)を参加者内要因とする1要因計画。参加者 女子大学生22名。平均年齢20.1歳。材料 記銘語は,豊田(2017b)と同じく兵藤ら(2003)から選択された漢字2字熟語であり,快語及び中立語を含んでいた。記銘リストは快語と中立語が対になり,左右の位置を統制し,自己選択・生存欲求規準,自己選択・親和欲求規準,及び強制選択条件にそれぞれ6対ずつを割り当てた。そして,リストの最初と最後にバッファー対を1対ずつ追加し,20対から構成された。これらのリストはPower Pointのスライド画面として提示された。自由再生テスト用紙は,B6判。選択語確認用紙には,バッファー語を除く18対を印刷し,B6判。手続 意図記憶手続きを用いた集団実験。1)記銘試行 参加者は,Power Pointのスライド画面に提示された記銘語対から「生きるためにより必要なのは?」という質問(自己選択・生存欲求規準)及び「人と親しくなるために必要なのは?」という質問(自己選択・親和欲求規準)がある場合には,質問に該当する単語を選択して覚えるように教示された。また,一方の単語に下線がある場合(強制選択)には,その下線の単語を覚えるように教示された。練習用のスライドが3画面(各条件に対応して1画面ずつ)提示され,説明が行われた。その後,本試行に入り,参加者は5秒ごとに提示される各画面に示された単語対の内,1つの単語を選択して記銘した。2)自由再生テスト 自由再生テスト用紙による書記自由再生 3分。3)選択語確認試行 記銘語対の印刷された用紙を配布し,参加者に選択語及び再生できた語に○をつけて,自己採点をしてもらった。その結果をもとに実験の解説を行い,了承を得た上で全員から用紙の提供を得た。
 結 果 選択語(指示語)の再生率(Table1の上欄)分散分析の結果,選択規準の主効果(F(2,42)=22.95, p<.001)が有意であり,Ryan法による多重比較の結果,自己選択・生存欲求規>自己選択・親和欲求規準>強制選択という関係が示された(前2者間はp<.05, その他の間はp<.001)。非選択語(非指示語)の再生率(下欄) 分散分析の結果,選択規準の主効果(F(2,42)=7.91, p<.01)が有意であり,Ryan法による多重比較の結果,自己選択・生存欲求規=自己選択・親和欲求規準>強制選択という関係が示された(前2者間と後者間はp<.001)。
 考 察 予想通り,自己選択・生存欲求規準条件が自己選択・親和欲求規準条件よりも再生率が高く,ともに強制選択条件よりも再生率が高かった。この結果は,豊田(2017a)の偶発記憶手続きを用いた結果と一致している。そこでは生存欲求規準の自己選択条件が自己準拠規準(自己実現欲求に対応)の自己選択条件よりも再生率が高かった。本報でも,生存欲求規準が親和欲求規準よりも再生率が高く,自己選択効果(強制選択条件との差)も大きかった。これらの結果は,記憶符号化の有効性がMaslow(1962)による欲求階層構造に対応すると仮定するToyota(2016)のモデルを支持するものである。最下層に位置する生存欲求に対応する符号化の有効性が自己選択効果においても見いだされたのである。

キーワード
意図記憶/自己選択効果/生存欲求


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