発表

1D-055

老齢ラットの次元内および次元外移行学習

[責任発表者] 谷内 通:1
[連名発表者・登壇者] 片岡 希美#:1
1:金沢大学

 加齢に伴う認知能力の変化について,ラットやマウスの老齢動物を用いた研究も多数行われてきている。認知機能に対する加齢の効果は,モリス水迷路を使用した空間参照記憶や見本合せによる作業記憶,探索行動を利用した物体の種類や空間位置の変更に対する記憶, Y迷路の自発的な位置交替反応を利用した作業記憶の査定などが主に行われてきている。
 一方で,Barense et al. (2002)は若年と老齢ラットについて,ウィスコンシンカード分類テストに相当する課題を動物で実施するために考案されたセットシフト課題による実行機能の検討を行っている。セットシフト課題では同一の動物に対して,特定の刺激次元に関する弁別学習,次元内移行,逆転学習,および次元外移行が連続して行われる。Barense et al. (2002)では,単純弁別,複合弁別,次元内移行では群間にほとんど差は認められず,逆転課題では老齢群の成績がやや劣るものの有意ではなかった。これに対し,次元外移行課題では若齢群よりも老齢群が有意に劣ったことから,新しい知覚次元への注意の移行に関する実行機能が老齢動物では低下することが示唆された。本研究は,Barense et al. (2002)と同様の検討を行うことで,老齢ラットの実行機能を評価する上でのセットシフト課題の有効性について確認することを目的とした。
 方法
 被験体:弁別学習実験の経験のないWistar系オスラット18匹を用いた。実験期間を通して,飼育飼料を毎日16 g与えた。約70日齢と約180日齢各5匹の計10匹を若中年期群,680-840日齢の8匹を老齢群とした。
実験装置:実験装置には長さ60 cm,幅30 cm,高さ36 cmの水槽を用いた。水槽の一方の端に弁別刺激の提示容器として,上部の直径10 cm,高さ10 cmの素焼きの植木鉢を並べて設置した。弁別刺激として,嗅覚刺激には,バニラ,アーモンド,レモン,ストロベリー,ミント,ローズマリー,ラベンダーのエッセンス溶液を使用した。容器を埋める媒体刺激としては,スチールウール,ピンポン玉,鉢底石,ペットボトルのキャップ,スポンジ片,樹脂製の小型醤油容器を使用した。餌報酬としては,約50 mgのシリアル3粒を用いた。
手続き:食餌制限および個別のハンドリングを行った後に個別の装置探索を与えた。装置探索は媒体刺激を掘り起こして餌報酬を獲得する行動の反応形成を兼ねていた。 10分間の装置探索時に,弁別訓練で使用する弁別容器2つを本訓練で使用しないオガクズで満たして設置した。餌報酬3粒を最初はオガクズの表面に置き,次第に底の方に移動することで,媒体刺激を掘り起こして餌報酬を獲得する行動を形成した。
 本訓練は,単純弁別(SD),複合弁別(CD),次元内移行(IDS),逆転学習(Rev),および次元外移行(EDS)の5つの段階から構成された。単純弁別では,2種の媒体刺激M1とM2を提示し,M1が正刺激となる弁別学習を行った。学習基準は6試行連続の正反応とした。1日に12試行を行い,正刺激の左右の設置順序はFellows系列にしたがって変えた。複合弁別では,M1とM2に嗅覚刺激O1またはO2を加えて複合的に提示したが(M1/O1+対M2/O2-,M1/O2+対M2/O1-),嗅覚刺激に関わらずM1が正刺激のままであった。次元内移行では,媒体刺激がM3とM4に移行した。これらの媒体刺激には嗅覚刺激O3またはO4が複合されてともに提示されたが,嗅覚刺激に関わらずM3が正刺激,M4が負刺激であった(M3/O3+対M4/O4-,M3/O4+対M4/O3-)。逆転学習では,IDS課題と刺激の正負が逆転し,嗅覚刺激O3またはO4に関わらずM4が正刺激,M3が負刺激となった(M3/O3-対M4/O4+,M3/O4-対M4/O+)。次元外移行では,媒体刺激がM5とM6に変更され,それぞれが嗅覚刺激O5またはO6とともに複合的に提示されたが,媒体刺激に関わらずO5を正刺激,O6を負刺激とした(O5/M5+対O6/M6-,(O5/M6+対O6/M5-)。
 結果と考察
 若中年群と老齢群が各段階の学習基準を達成するのに要した試行数をFigure 1に示した。t検定を用いた計画比較では,単純弁別(SD, p=.235),複合弁別(CD, p=.370),次元内移行(IDS, p=.479),および逆転学習(Rev, p=.443)では,両群の遂行成績に有意な違いは認められなかった。これに対し,次元外移行(EDS)では,老齢群の成績が若中年群よりも有意に悪かった(p=.0483)。本研究の結果は,Barense et al.(2002)と同様のパタンを示していると考えられる。Barense et al.(2002)と比較して次元外移行(EDS)における群間の差が明確ではなかったのは,Barense et al.(2002)の老齢群が25-27ヵ月齢であったのに対し,本研究では約23-28ヵ月齢と,老齢群にやや若い動物が含まれていたことによる可能性が考えられる。また,Barense et al.(2002)は単純弁別から逆転学習まで媒体刺激を適切次元,匂い刺激を不適切次元として,次元外移行で匂い刺激が適切次元となる移行パタンだけでなく,匂い刺激から媒体刺激への移行を行う相殺を行っており,これらを総合してデータを分析している。これに対し,本研究の次元外移行が媒体刺激(M)から嗅覚刺激(O)のみであったために,嗅覚刺激に対する弁別が相対的に速かった可能性が考えられる。

キーワード
ラット/加齢/移行学習


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