発表

3A-052

超高速提示される画像の再認成績は視覚記憶負荷に影響されるか

[責任発表者] 長谷川 国大:1
[連名発表者・登壇者] 大杉 尚之:2, 小澤 良:3
1:産業技術総合研究所, 2:山形大学, 3:中京大学

 近年,人は極めて高速に視覚入力された情報を認識できることが明らかになってきた。そのメカニズムは不明であるが,高次視覚野からのフィードバックを受けたリカレント処理による意識的視認 (Lamme, 2006) には少なくとも50ミリ秒程度の時間が必要とされるのに対し,超高速視認は最短13ミリ秒でも実現されることからフィードフォワード処理のみで実現されている可能性が指摘されている (Potter, et al, 2014)。困難な視覚記憶課題中には視認課題遂行に関わる脳領域の持続的な賦活が認められており (Ungerleider et al., 1998),もし視認課題遂行にリカレント処理を必要とするのであれば,並行して行われる視認課題成績が低下すると考えられた。そこで本研究では,二重課題手続きを用いて画像視認課題と視覚記憶課題を並行して実施し,画像視認課題の画像提示時間と視覚記憶課題の難易度を操作し,記憶負荷の高さが視認課題成績に及ぼす影響を検討した。
方法
 健常成人40名が実験に参加した。実験は 2 (記憶課題の負荷: 高・低) × 5 (視認対象画像の提示時間: 13, 27, 53, 80, 200ミリ秒) の2要因計画で,要員間の全て組み合わせからなる 10 ブロックで構成された。各ブロックは計32試行で構成された。各ブロック内の1試行の流れは以下の通りであった。まず,注視点 (視角0.5度) が500ミリ秒間提示された後,視覚記憶課題の記銘画面が200ミリ秒間提示された。記銘画面には色パッチ (視角1度) が画面中央視角5度の領域の四隅に1つずつ配置された。低記憶負荷条件では4つ全てが同じ色であった。高記憶負荷条件では全て別の色であった。色は赤,緑,青,黄,マゼンタ,シアンから試行毎にランダムに選択された。次にブランク画面1000ミリ秒を挟み,視認課題の視認対象として自然画像写真6枚が1枚ずつ連続で画面中央視角5度の大きさで提示された。提示時間は 13, 27, 53, 80, 200ミリ秒のいずれかで,実験ブロック毎に固定であった。その後ブランク画面1000ミリ秒を挟み,視認課題の再認画面が提示された。この再認画面には先の6枚の自然画像写真のうちのいずれか (old試行),あるいは新規の自然画像写真 (new試行) が画面中央に視角5度の大きさで提示された。画面は参加者の反応が記録されるまで提示され続けた。参加者は再認画面の画像が連続提示された画像の中に含まれていたか否かを,キーボードのYキー (あった) もしくはキーボードのNキー (なかった) を押して判断するよう求められた。最後に視覚記憶課題の再認画面が提示された。この再認画面には先の4つの色パッチ (old試行),あるいは4つのうちの1つの色が変化したもの (new試行) が提示された。参加者は再認画面の色パッチが先行提示されたものと同じであるか否かを,キーボードのYキー (同じ) もしくはキーボードのNキー (違う) を押して判断するよう求められた。画面は参加者の反応が記録されるまで提示され続け,1000ミリ秒のブランク画面を挟んで,次の試行の注視点が提示された。
結果
 視認課題成績 (d') を Figure 1 に示す。まず1サンプルの t 検定により視認課題成績とチャンスレベル (d' = 0) が比較された。その結果,提示時間が13ミリ秒の場合はチャンスレベルとの間に有意差は認められなかった (高記憶負荷条件: p = .14; 低記憶負荷条件: p = .11)。その他の全ての条件ではチャンスレベルを上回っていた (すべて p < .01)。また視覚記憶課題の負荷 (高, 低) × 画像の提示時間 (13, 27, 54, 80, 200ミリ秒) から成る個人内二要因分散分析およびその下位検定より,画像提示時間13, 27ミリ秒の条件では記憶負荷の効果は認められなかった (p > .73)。53, 80ミリ秒の条件では効果が認められた (どちらも p < .05)。200ミリ秒の条件では有意傾向が示された (p = .80)。
考察
 結果より,50ミリ秒以上提示される画像の再認成績は,視覚記憶負荷の影響を受けた。これは高次視覚野からのフィードバックを受けることで視覚認識精度が向上するという従来の知見を支持する結果であった。一方で,画像の提示時間が27ミリ秒の場合,再認成績は明確にチャンスレベルを超えていたにも関わらず,視覚記憶負荷の影響は認められなかった。これは,超高速視認には高次視覚野からのフィードバックを必要としない可能性を支持する結果であった。総合すると,まずフィードフォワード処理のみにより超高速視認が実現され,やがて高次視覚野からのフィードバックを受けてその精度が徐々に向上されてはっきり意識される二段階の視覚認識過程の存在が示唆される。
引用文献
Lamme (2006). Trends in Cognitive Sciences, 10, 494–501.
Potter et al. (2014). Attention, Perception & Psychophysics, 76, 270–279.
Ungerleider et al. (1998). Proceedings of the National Academy of Sciences, 95, 883–890.

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