発表

3A-050

閾下呈示された表情の処理過程と表情認識に共感性が及ぼす影響
— 連続フラッシュ抑制法を用いて —

[責任発表者] 貫 万里子:1
1:東京大学

 目的
 閾下呈示課題は,脳の低次における情動や表情処理の過程を明らかにするために有効であると考えられる。上田・近藤・高橋・渡邊(2011)では連続フラッシュ抑制法を用いて,抑制眼側に呈示されたプライミング刺激が表情認識に影響を及ぼすことを示した。だが,参加者数や課題の実施条件に問題点が残された。また,表情が他者に対する情動喚起を促す機能も持ちうることから,表情処理には他者の感情状態を推測し自らに起きた感情反応を認知する共感性能力が関わることが推察される。そこで本研究では,上田他(2011)を参考に表情刺激を閾下呈示し処理過程を検討するとともに,多次元共感性尺度 (鈴木・木野, 2008) を用いて共感性能力が表情認識に及ぼす影響を検討した。
 方法
実験参加者 正常な視力の大学生 46 名。
実験計画 
 プライム刺激表情 (笑顔,怒り顔,プライム無し) ×標的刺激表情(笑顔,怒り顔)の被験者内 2 要因とした。
装置・刺激
 上田他(2011)の研究をもとに,ミラーステレオスコープから,画面上に映し出された左右の刺激をそれぞれ参加者の左右の眼に投影するように設定した。刺激は,モザイク刺激とJAFFEデータベースの中から選んだ5 名の笑い顔と怒り顔(グレーイメージ)を呈示した(図1)。
 結果
 Go/No-go 課題の反応時間 (秒) の逆数 (1 / 反応時間) を算出し,反応速度として分析を行った(図2)。 3(プライム刺激の表情:笑い,怒り,プライム無し)× 2(標的刺激の表情:笑い,怒り)の 2 要因分散分析を行った結果,プライミング表情の主効果 (F (1.53 , 68.74) = 54.09, p < .001) が有意であり,多重比較の結果,プライム刺激表情が怒りor笑いの時,呈示無し条件よりも反応速度が有意に速かった。さらに標的刺激表情の主効果が有意であり(F( 1, 45 ) = 6.67 , p = .013 ),標的刺激表情が笑い条件の方が怒り条件より反応速度が有意に速かった。プライム刺激表情×標的刺激表情の交互作用が有意であり (F(1.26 , 56.61) = 640.94 , p < .001) ,標的刺激表情が笑い条件( F ( 1.16, 52 ) = 433.56, p < .001 ),怒り条件(F ( 1.29, 58.19 ) = 477.10, p < .001 )でのプライム刺激表情の単純主効果,プライム刺激表情が笑い条件( F ( 1, 45 ) = 378.50, p < .001 ),怒り条件( F ( 1, 45 ) = 360.79, p < .001 )での標的刺激表情の単純主効果が有意であった。多重比較の結果,標的刺激表情が笑い条件において,プライム刺激表情は笑い>呈示無し>怒りの順に反応速度が有意に速かった。また標的刺激表情が怒り条件において,プライム刺激表情は怒り>呈示無し>笑いの順に反応速度が有意に速かった。
 さらに多次元共感性尺度の各因子得点と反応速度との相関を算出した結果,自己指向的反応因子と,プライム刺激表情が笑い条件で標的刺激表情が怒り条件の時に有意な相関が見られ ( r = .333, p = .026),プライム呈示無し条件で標的刺激表情が怒り条件で有意傾向の相関が見られた ( r = .256, p = .090)。
 考察
 反応速度の分析において,プライム刺激の呈示が標的刺激の表情認識に影響を及ぼすことが示唆された。また,標的刺激表情が笑い条件の方が怒り条件より処理速度が速い可能性が示唆され,プライム刺激と標的刺激の表情が異なる場合は一致する場合より反応に時間がかかることが明らかになった。以上より表情の情動的な処理が潜在的に行われている可能性が示唆された。さらに共感性について,自己指向的反応性因子が表情認識に影響を及ぼしていることが示唆された。
 引用文献
鈴木有美・木野和代 (2008). 多次元共感性尺度 (MES) の作
 成 自己指向 ・他者指向の弁別に焦点を当てて―.
 教育心理学研究, 56, 487-497.
上田 大志・近藤 あき・高橋 康介・渡邊 克巳 (2011).
 両眼視野闘争下での表情認識におけるプライミング効果.
 電子情報通信学会技術研究報告, 111, 57-61.

キーワード
共感性/表情認識/連続フラッシュ抑制法


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