発表

3A-046

目撃した未知顔への親近感の高さと人違いの生起確率の関係

[責任発表者] 島根 大輔:1
[連名発表者・登壇者] 三浦 大志:2, 伊東 裕司:1
1:慶應義塾大学, 2:杏林大学

 我々は,ある人物(目撃人物)を見かけて特定の知人(誤同定人物)であると思ったが,後になってそれが別人であることが明らかになったという「人違い」をすることがある。これまでの人物同定の研究では,実験室で記銘させた人物について後のテストで同定出来るかどうかを検討することが多く,参加者が個人的に知っている人物の同定過程はあまり検討されていない。しかし,人違いという現象はこの同定過程の検討が必要であることを示す。これまで,目撃者が個人的に知っている人物を目撃したという証言は,正確かつ信用できると考えられてきた。この考えは,人の経験的な直感に基づいている。しかし人違いは,この人間の経験的な直感が誤る可能性を示唆する。つまり,個人的に知っている人物ですら,誤同定する可能性があることを示す。そこで本研究では,この同定過程に関連する顔の諸要因を明らかにするため,実験室で人違いを生起させる手続きを開発し,未知の目撃人物への親近感(familiarity)の高さが人違いの生起確率に影響するかどうかを検討した。具体的には,ある未知顔刺激(primed項目)を事前に閾下単純接触させることで潜在的に親近感を上げるよう操作し,閾下単純接触させていない未知顔刺激(unprimed項目)よりも人違いされやすいかどうかを検討した。

【方法】
実験参加者 G-powerを使用した検定力分析の結果からサンプルサイズを決定した(Faul, Erdfelder, Lang, & Buchner, 2007)。先行研究より,一要因参加者内計画のCohen’s dを0.4-0.5として分析した結果,高い検定力(0.95 power)を保つために必要な参加者は54-84名であった。そのため本実験には,71名の大学生・大学院生が参加した。
刺激 有名人の顔画像を20枚(女14枚,男6枚),非有名人の顔画像を96枚(女66枚,男30枚)使用した。これらの顔刺激は,予備実験によって親近感が測定された。
手続き 本実験は,事前課題,本課題,事後評価の3つのフェイズに分けられた。事前課題では,スクリーンに提示された文字列が単語かどうかを判断させた。この課題中,実験参加者に意識的に知覚されない程度の時間(16ms)で顔刺激を提示することで,その刺激に閾下単純接触させた(primed項目)。本課題では,スクリーンの中央に提示される数字を音読させながら,スクリーンの中心点から半径15cmの円上に瞬間提示(100ms)される顔刺激の中から有名人の顔を選択させた。参加者には,この中に一定確率で有名人が提示されるため,有名人が提示されたと判断したらキー押しで反応するよう教示した。キー押し反応があった場合,それが誰の顔であったかを回答させ,本課題を再開させた。本課題終了後,有名人であると誤判断された非有名人の顔刺激について,誤判断された有名人との類似度を評定させた。評定項目は,髪型・顔の輪郭・口・鼻・目や眉・全体についてであった。
要因計画 primed vs unprimed の一要因参加者内計画であった。従属変数は,非有名人顔への有名人であるという誤判断の回数(誤申告回数)であった。

【結果】
 primedとunprimedの間に誤申告回数の違いがあるかどうかを検討するためt検定を行った(図1)。その結果,水準間に有意な違いは認められなかった(t(70)=1.13, p=.13)。一方で,刺激項目についての分析の結果,誤申告回数と予備実験で測定した親近感に正の相関関係が認められた(r=.22, p<.05)。

【考察】
 本研究では,未知顔刺激への親近感(familiarity)の高さが人違いの生起確率に影響するかどうかを検討した。実験の結果,閾下単純接触の有無による違いは認められず,操作した親近感の高さが人違いの生起に影響するとは言えなかった。一方で,元の刺激への親近感は人違いの生起に関連することが示された。これらの結果は,閾下単純接触によって短期的・潜在的に操作した親近感ではなく,長期的に形成され,意識的に測定された親近感が人違いに関係することを示唆する。しかし,本研究の閾下単純接触による効果が認められなかったことについて,少なくとも2つの可能性が考えられる。第一に,16msの閾下単純接触では,親近感を操作できなかった可能性である。第二に,閾下単純接触で操作するような親近感は人違いに関連しないという可能性である。これらの仮説を検討するため,次の研究では,閾下単純接触での提示時間を長くする,もしくは接触回数を増やすことで親近感の効果が現れるかどうかを検討する必要がある。

Faul, F., Erdfelder, E., Lang, A. G., & Buchner, A. (2007). G* Power 3: A flexible statistical power analysis program for the social, behavioral, and biomedical sciences. Behavior research methods, 39(2), 175-191.

キーワード
人違い/人物同定/親近感


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