発表

2D-046

日常の心理ストレスにおける生理学的および主観的指標と認知制御機能との関係性に関する探索的検討

[責任発表者] 浅野 倫子:1
[連名発表者・登壇者] 日髙 聡太:1, 樋口 麻衣子#:1, 日野 美紀#:1, 後藤 聡#:1
1:立教大学

■ 目的
 心理ストレスの度合いの代表的な生理学的指標として唾液中のコルチゾール濃度がある。多くの研究で,心理的なストレスがかかるとコルチゾール濃度が上昇すること(Kudielka et al. 2004),そのような上昇は,注意機能など認知的パフォーマンスの低下とも関連すること(井澤, 2010)が分かっており,このような生理学的指標は,心理ストレスやその影響の大きさを客観的に測る上で有用だと考えられる。しかし先行研究は,参加者に実験環境で人為的にストレスを与え,その前後での生理学的指標の過渡的な変化を調べたものが多く,長期的に健康等に影響を及ぼすと考えられる日常的,慢性的なストレスについての知見は少ない。
 そこで本研究では,日常のストレスに関する生理学的指標および主観的ストレス度と,認知制御機能の関係を探索的に調べた。唾液中のコルチゾール濃度は起床時に低く,その後1時間弱の間に急激に増加することが知られている。このような起床時コルチゾール反応は,抑うつなどのストレス性疾患によって鈍化することが知られているため(田中・脇田, 2011),この反応の大きさを慢性的なストレスの生理学的指標として扱った。また,ストレスは対人関係やコミュニケーションの困難さとも関連すると推測されることから,これらの困難さを大きな特徴とする自閉症スペクラム傾向の強さとの関係も調べた。
■ 方法
参加者 大学生39名(男性11名,女性28名)が協力した。
手続き 参加者は1日目に自宅で唾液を採取し,2日目(翌日)に,実験室で認知制御機能の高さを測定する「多資源干渉課題」を行った後,「心理的ストレス反応尺度(SRS-18)」と「自閉症スペクトラム指数(AQ)」に回答をした。
 唾液の採取は起床直後,起床30分後,就寝前の3時点で流涎法により行った。多資源干渉課題は,画面上に横並びに提示された3つの数字のうち,1つだけ異なるものをできる限り早くかつ正確に答える課題であった。3桁の数字は0,1,2,3の4種類の数字のうちの2種類で構成され,1つだけ異なる数字が1の場合は右手人差し指で「1」キーを,2の場合は中指で「2」キーを,3の場合は薬指で「3」キーを押して回答した。0は回答の対象とならなかった。全試行の半数の統制条件は,回答すべき数字の位置(左,中,右)と回答時に押すべきキーの位置が一致し,かつ,他の2つの数字(妨害数字)は回答対象ではないことが明白な0であり(例:「100」「020」),認知処理において各種情報間の干渉が少ない条件であった。一方,もう半数を占める干渉条件は,回答すべき数字の位置とキーの位置が不一致で,かつ,妨害数字が0以外(回答対象になりうる数字)から選ばれており(例:「221」「131」),刺激位置と反応位置の情報間の干渉の解決や,妨害数字に対する反応の抑制といった,認知制御が必要とされる条件であった。刺激は1.75秒おきに提示し,全192試行をランダムな順に実施した。SRS-18は日常的な(直近2,3日の)心理ストレスの主観的な度合いを測る18項目の質問紙(鈴木ら, 1997),AQは自閉症傾向の強さを測る50項目の質問紙であった(若林ら, 2004)。
■ 結果
分析方法 起床直後から30分後にかけてのコルチゾール濃度増加量を,コルチゾール起床時反応の大きさの指標とした。多資源干渉課題の干渉条件の反応時間から統制条件の反応時間を引いたものである干渉量を,認知制御機能の高さの指標とした。主観的ストレス度はSRS-18,自閉症傾向の強さはAQの合計得点を指標とした。
各指標間の相関 コルチゾール起床時反応の大きさは,主観的ストレス度との間には相関はみられなかったが(r = .16, n.s. ),多資源干渉課題の干渉量との間には統計的に有意な負の相関がみられた(r = -.42, p < .05)。これは,コルチゾール起床時反応が鈍い人ほど,認知制御機能が低い(無視すべき情報からの干渉を受けやすい)ことを示している。コルチゾール起床時反応の大きさと自閉症傾向の強さの間には相関は見られなかった(r = -.01, n.s. )。一方,主観的ストレス度と自閉症傾向の間には有意な正の相関がみられた(r = .35, p < .05)。これは,主観的に強くストレスを感じている人ほど自閉症傾向も高いという結果である。主観的ストレス度と多資源干渉課題の干渉量との間には相関は見られなかった(r = -.23, n.s. )。
■ 考察
 実験の結果,ストレスに対する生理的指標は認知制御機能の高さとのみ相関し,コルチゾール起床時反応が鈍い人ほど認知制御機能が低いことが分かった。一方,主観的ストレス度は認知制御機能の高さとは相関しないが,自閉症傾向の高さと関係性がみられた。これらの結果は,生理的に計測されたストレスの度合いと,質問紙尺度で得られる主観的なストレスの度合いがストレスの異なる側面を反映することを示唆する。前者は客観的な指標である認知制御の困難さ,後者は主観的に感じられる社会的コミュニケーションの困難さと結びついている可能性がある。
■ 引用文献
井澤修平. (2010).労働安全衛生総合研究所特別研究報告,
 40, 159-162.
Kudielka, BM., Buske-Kirschbaum, A., Hellhammer, DH.,
 & Kirschbaum, C. (2004). Psychoneuroendocrinology,
 29
, 83-98.
鈴木伸一・嶋田洋徳・三浦正江・片柳弘司・右馬埜力也・
 坂野雄二 (1997). 行動医学研究, 4, 22-29.
田中喜秀・脇田慎一 (2011). 日本薬理学雑誌, 137, 185-
 188.
若林明雄・東條吉邦, Baron-Cohen, S., Wheelwright, S.
 (2004). 心理学研究, 75, 78-84.

キーワード
心理ストレス/コルチゾール/認知制御機能


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