発表

2C-039

日本語版心理的所有感尺度の作成

[責任発表者] 佐々木 恭志郎:1,2,4
[連名発表者・登壇者] 井関 紗代:3,4, 北神 慎司:3
1:早稲田大学, 2:九州大学, 3:名古屋大学, 4:日本学術振興会特別研究員

目的
我々は,自身の所有物に対して「所有している」という感覚 (所有感) を有している。このような所有感のメカニズムや個人差を検討するためには心理測定尺度が必要である。Walasek et al. (2015) は,自己・所有物関連性 (Ferraro et al., 2011) と所有感 (Pierce et al., 2001) の2因子からなる心理的所有感尺度を開発した。本研究では,この心理的所有感尺度の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性について検討を行った。
方法
項目作成 Walasek et al. (2015) の尺度を著者たちで日本語訳した後に,校正会社 (Editage) にバックトランスレーションを依頼した。その後, 原著者たちがバックトランスレーションと元の尺度の整合性について確認した (全項目はhttp://u0u0.net/Zl2xより確認可能)。各項目は「全く当てはまらない」から「非常に当てはまる」の5件法で回答された。
参加者 先行研究 (Walasak et al., 2015) を参考に最低分析対象者数を800名,最大対象者数を900名に設定した。Yahooクラウドソーシングにより,900名で参加者を募集したところ1212名が調査に参加した。しかしながら,後述の除外基準に抵触した参加者が376名いたため,結果として836名が分析対象者であった。
手続き Walasek et al. (2015) の調査2の手順にしたがった。参加者には,自身の持ち物の中で3万円程度の大事なモノを思い浮かべるように教示した。その後,想起したモノを対象として心理的所有感尺度の項目に回答することを参加者に求めた。次に妥当性検証のために,想起したモノについて「どのくらい思い通りに扱うことができるか (主観的制御感)」を7件法で尋ねた。加えて,思い浮かべたモノについて「他人がいくら払えば,それを手放すか (WTA)」「仮に失ってしまい,買い戻せる場合,いくらまでなら支払えるか (WTP)」「一般的にいくらで売られているか (市場価格)」を参加者に尋ねた。また,いい加減な参加者 (Satisficer) を検出するために,教示操作チェック課題と注意チェック課題を設けた。
結果
教示操作チェック課題および注意チェック課題に誤った回答を行った参加者を分析の対象から除外した。また,WTPおよび市場価格を0円と回答した参加者についても除外した。モノの所有感尺度について並行分析を行った結果,先行研究 (Walasak et al., 2015) と同様に2因子が妥当であると判断された。
主成分分析 Walasak et al. (2015) と同じく主成分分析 (オブリミン法) を行った。先行研究と同様の項目で第1成分と第2成分に分かれた (第1成分: 主成分寄与量 = 3.56, 説明率 = 60 %; 第2成分: 主成分寄与量 = 2.37, 説明率 = 40 %)。この結果は,分析対象者を2群に分けて分析を行った場合でも保たれた。
探索的因子分析 半数の分析対象者に対して探索的因子分析(最尤法およびバリマックス回転) を行った。その結果,主成分分析と同様の項目の分かれ方で2因子が抽出された (表1; 因子1: 寄与率 = 33 %,説明率 = 58 %; 因子2: 寄与率 = 24 %,説明率 = 42 %)。因子1を「自己・所有物関連性因子」,因子2を「所有感因子」と名付けた。なお, KMOの測度は.86であり,Bartlett の球面性検定は有意であった (χ2(36) = 1724.95, p < .001)。また,尺度全体のα係数は.86であった。
確認的因子分析 探索的因子分析で使用されなかった半数の分析対象者に対して,構造方程式モデリングによる確認的因子分析を行った。モデルとして,探索的因子分析で見出された2因子モデルを用いた。その結果,探索的因子分析で見出された2因子モデル適合度が高いことが明らかになった (CFI = .97, TLI = .96, RMSEA = .07, SRMR = .04)。
回帰分析 全分析対象者に対して, 従属変数が自己・所有物関連性因子得点,独立変数が主観的制御感,WTA/市場価格 (許容指標),WTP/市場価格 (支払意思指標),WTA/WTP (保有効果指標) の重回帰分析を行った。その結果,主観的制御感および支払意思指標のみが有意に正の方向に自己・所有物関連性得点を予測した (β = .21, p < .001; β = .02, p = .03)。また,従属変数のみを所有感得点に変更した重回帰分析を行ったところ,主観的制御感のみが所有感得点を有意に正の方向に自己・所有物関連性得点を予測した (β = .62, p < .001)。
考察
本研究の目的は,日本語版心理的所有感尺度の作成であった。調査の結果,日本語版心理的所有感尺度は高い信頼性と,先行研究 (Walasek et al., 2015) と同様の2因子構造であることが明らかになった。加えて,主観的制御感が両因子を正方向に予測することも明らかになった。このことはこれまでの知見 (e.g., Iseki & Kitagami, 2016; Peck et al., 2013) と一致している。したがって,概ね妥当性についても保証されたと考えられる。一方で,所有対象については価値を高価に見積もると言われているが (e.g., Shu & Peck, 2011),本研究では金銭価値に関わる許容指標,支払意思指標,保有効果指標とそれぞれの因子はほぼ関連がなかった。一つの可能性として考えられるのは,本研究では想起したモノについて3万円程度と制限をかけたために金額がばらつきにくく,そのことが結果に影響した可能性が考えられる。ゆえに,引き続き慎重な検証が必要である。

キーワード
モノの所有感/自己・所有物関連性/質問紙


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