発表

2C-037

多感覚的な感情認知における話者の顔に対する注視パターンの文化差

[責任発表者] 河原 美彩子:1,2
[連名発表者・登壇者] 山本 寿子:1, 田中 章浩:1
1:東京女子大学, 2:日本学術振興会

【目的】 非言語情報を手がかりとした他者感情の認知様式は文化によって異なる。中でも,顔の表情と声の調子を手がかりとした多感覚的な感情認知においては,顔の表情は欧米人に,声の調子はアジア人に重視されやすいことが明らかとなっている(Tanaka et al., 2010)。このように顔と声の組み合わせから感情を判断する際,表情に対する視線の向け方にも文化差が見られるのだろうか。本研究では,日本人とオランダ人の大学生を対象に,顔と声を手がかりとした感情認知課題を実施すると同時に,課題中の視線を計測した。感情を判断する際の話者の顔に対する注視パターンおよび,注視パターンと感情認知様式(感情を判断する際に話者の顔の表情や声の調子からどの程度影響を受けるか)との関連性に文化差がみられるのか検討することを目的とした。
【方法】 日本人(27 名)とオランダ人(19 名)の大学生が実験に参加した。実験では,日本語話者とオランダ語話者(各女性2名)が,中立的な意味のセリフに怒りと喜びの感情を付加して発話している動画刺激を使用した。顔と声の感情が一致する刺激(喜び顔+喜び声,怒り顔+怒り声)に加え,顔と声の感情が矛盾する刺激(怒り顔+喜び声,喜び顔+怒り声)も作成した。実験では,話者の表す感情を喜びと怒りの二肢強制選択で実験参加者に判断させた。実験は顔注意課題と声注意課題から構成され,顔注意課題では話者の顔の感情を判断させ(声の感情は無視),声注意課題では話者の声の感情を判断(顔の感情は無視)させた。上記の顔と声を両方呈示する試行(AV試行)に加え,動画の映像のみを呈示し,話者の顔のみから感情を判断させるVO試行も実施した。Tobii eyetracker T60を用い,話者の顔に対する参加者の視線を計測した。
【結果と考察】 各課題の回答について,顔注意課題と声注意課題における正答率を日本人参加者とオランダ人参加者で比較した(図1)。その結果,声注意課題で文化差がみられ,日本人参加者の方がオランダ人参加者よりも正答率が有意に高かった(p < .001)。この結果は,日本人がオランダ人よりも顔の表情に影響を受けず声の感情を正しく回答できていることを示しており,先行研究と合致している。
 課題中の話者の顔に対する注視パターンを検討するため,刺激話者の目領域と口領域にAOIを設定した。刺激の動画再生時間を3区間(発話前(動画の開始時間~発話開始時間まで),発話中(発話開始時間~発話終了時間まで),発話後 (発話終了時間~動画の終了時間まで))に区切り,各区間の目領域と口領域への注視率を算出した。各課題において,目領域への注視率を日本人参加者とオランダ人参加者で比較した結果,どちらの課題でも有意な差異はみられなかった。
 注視パターンと課題の正答率の関連を検討するために,参加者を各文化内において,目領域への注視率の高さで群分けし,課題の正答率を比較した。その結果,声注意課題において,目領域への注視率低群に文化差がみられ(図2),目領域への注視率が低い群(つまり,口領域への注視率が高い群)では,オランダ人参加者が日本人参加者よりも顔の表情からの影響を大きく受けていた(p < .001)。一方,目領域への注視率が高い群では有意差が見られず,日本人とオランダ人の参加者は顔の表情からの影響を同程度受けていた。また,声注意課題において,目領域への注視率と課題の正答率の相関係数を算出し,参加者の文化間で比較した(図3)。その結果,オランダ人参加者では正の相関がみられ,目領域への注視率が高い人ほど声の感情を正しく選択できていた(r = .51)。一方,日本人参加者では弱い負の相関がみられた (r = .-28)。これらの相関係数の差の有意性を検定したところ,日本人参加者とオランダ人参加者の間で相関係数が有意に異なっていた(p = .02)。これらの結果から,目元(あるいは口元)を注視することが声の感情判断の読みとりに及ぼす影響は文化によって異なることが示唆された。
【謝辞】 本研究は科研費新学術領域研究No. 17H06345「トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―多文化をつなぐ顔と身体表現―」の助成を受けたものです。

キーワード
多感覚/感情認知/文化差


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