発表

2B-053

脅威刺激はいつでも注意を捕捉するのか?
―現代的な脅威刺激と文脈の関係性の検討―

[責任発表者] 武野 全恵:1,2
[連名発表者・登壇者] 北神 慎司:1
1:名古屋大学, 2:日本学術振興会

目的 ヘビやクモといった脅威刺激は,脅威でない刺激よりも早く検出される(e.g., Blanchette, 2006)。このような古典的に生命を脅かすような刺激への注意バイアスは,進化の過程で脅威の対象として学習され,恐怖モジュールと呼ばれる処理システムを活性化させるためであると考えられている(Öhman & Mineka, 2001)。また,包丁や凶器といった現代の脅威刺激も古典的脅威刺激と同様に注意をひきつける(Fox, Griggs, & Mouchlianitis, 2007)が,これは特定の脅威刺激に対して恐怖モジュールが活性化しているためではなく,危険回避といった目的に関連する物体を検出するために生じるとも考えられている(Subra, Muller, Fourgassie, Chauvin, & Alexopoulos, 2018)。このように現代の脅威刺激にへの注意が引き付けられる原因については見解がわかれている。そこで本研究では,銃や包丁といった現代の脅威刺激の存在が周辺の文脈と一致する場合と一致しない場合で,脅威刺激による注意の捕捉の生じ方が変化するのかについて検討を行った。もし脅威刺激への注意捕捉が強く文脈に依存するならば,文脈一致条件では脅威刺激による注意の捕捉はほとんど生じないだろう。

方法 実験計画 刺激のカテゴリ(警察,台所,文房具,スポーツ),妨害の種類(非脅威,逸脱・非脅威,脅威)を独立変数とする2要因4×3水準参加者内計画であった。
 実験参加者 大学生48名 (Mage = 19.9,SDage= 2.06) が参加した。
 刺激 ターゲットとして楽器・掃除カテゴリから2種類ずつ,ディストラクタとして警察・台所・文房具・スポーツカテゴリから5種類ずつの物体を選出した。さらに銃と包丁を脅威刺激として用いた。すべての物体の画像はグレースケール化され,サイズは約 2.1° × 2.1° であった。
 実験手続き 参加者は個別に実験に参加し,顔面固定台に顎をのせた状態で約57.3cm離れたディスプレイを見た。ディスプレイには,まず注視点が500ms間呈示され,その後,ディストラクタのカテゴリを示す単語が2000ms呈示された。その後,探索画面に切り替わり,参加者は6つの鉛管上に配置された物体の中から楽器あるいは掃除道具をできるだけ早く検出するように求められた。非脅威条件では,ディストラクタは単語で呈示されたカテゴリの非脅威刺激で構成された。逸脱・非脅威条件では,異なるカテゴリの物体が一つ,脅威条件では,脅威刺激(包丁か銃)が含まれていた。またターゲットがない探索画面であった場合,参加者は反応をしないように求められた。実験は4ブロック×88試行の全352試行で構成され,カテゴリの種類はブロックごとに切り替わった。


結果 カテゴリ別に未回答率を算出したとき,いずれかの条件で未回答率が2割以上であった2名を除いた46名 (Mage = 19.8, SD = 2.07, male = 17) で,カテゴリの種類と妨害の種類の2要因で分散分析を行った (図1)。その結果,カテゴリの種類と妨害の種類の交互作用が有意傾向であった (F (6, 270) = 1.88, p = .08, ηp2 = 0.04)。そこで,カテゴリ条件ごとに妨害の種類について多重比較を行ったところ,台所,文房具カテゴリで逸脱・非脅威条件は,非脅威条件よりも反応時間が遅く,t (45) = 2.90, p = .006, d = 0.41,t (45) = 3.11, p = .003, d = 0.44,警察,スポーツカテゴリでは遅い傾向にあった,t (45) = 1.84, p = .073, d = 0.26,t (45) = 1.85, p = .072, d = 0.23。また,文房具カテゴリで脅威条件が,非脅威条件よりも有意に遅くなったが,t (45) = 3.62, p < .001, d = 0.51)。台所カテゴリでは,逸脱・非脅威条件が,脅威条件よりも有意に遅くなった,t (45) = 3.62, p < .001, d = 0.54。

考察 本研究は,現代的脅威刺激への注意捕捉が,恐怖モジュールの活性化ではなく,目的に応じて変動するかについて,文脈を操作して検討した。実験の結果を解釈すると一部有意差が出ていないが,文脈不一致である刺激は注意を引き付け,脅威刺激も文脈から逸脱するときにしか注意を引きつけないといえ,現代的な脅威刺激による注意の捕捉は文脈に依存して生じることが示唆された。現代的脅威刺激は恐怖モジュールの活性化により常に注意を引き付けるわけではなく,目的や状況に応じて注意が向くか否かが変化すると考えられる。

キーワード
注意捕捉/脅威/文脈


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