発表

2B-048

音名が曖昧な音に対する色聴共感覚者の色の励起に関する検討

[責任発表者] 原島 小也可:1
[連名発表者・登壇者] 鳥羽山 莉沙:1, 横澤 一彦:1
1:東京大学

目的 ある種類の感覚器官が刺激されることにより別の感覚も自動的に生じる現象を共感覚と呼ぶ。音に色を感じる色聴共感覚では,音の高さと明度[1]が関連しているといったように,音の物理特性が共感覚色に与える影響についてこれまで様々な報告がなされてきた。しかし,本人の主観的印象のようなトップダウンの処理が共感覚色にどのような影響を及ぼしているのかについては,これまで具体的に検討されてこなかった。そこで本研究では,狭帯域雑音[2]という複数の音名情報を含む,音名が曖昧な音刺激を用い,全く同じ音刺激であったとしてもその音名を認知することによって異なる色を感じるようになるのか検討した。
 本研究ではまず,純音に加えて狭帯域雑音に対しても色聴共感覚者は色を感じるか調べた。これは,色聴共感覚者は純音に色を感じることは確認されているが,狭帯域雑音に対しても色を感じるのかは不明であったからである。なお,実際に色が励起していることは,時間安定性,すなわち個人内での音と色の対応関係が時間的にどのくらい安定しているかを指標とすることで確認した。
 次に,狭帯域雑音を聴くと同時に,音名を提示することによって感じる共感覚色が変化するか調べた。なお,ある音の音名を他の音と比較なしに特定できる能力である絶対音感を保持しているかどうかによって音名提示の影響が異なる可能性が考えられたため,本研究では参加者を絶対音感傾向群と非絶対音感傾向群に分けて分析した。
方法参加者 色聴共感覚者12名,非色聴共感覚者12名が実験に参加した(平均年齢24.9歳,SD=6.17)。共感覚群,非共感覚群ともに,絶対音感傾向の者が5名,非絶対音感傾向の者が7名という構成であった。なお,実験で使用した純音の音名を回答する課題を行い,正答率が50%以上だった者を絶対音感傾向群,それ以外の者を非絶対音感傾向群とした。
刺激・手続き 実験では16音程からなる,純音と狭帯域雑音の2種類の音刺激を使用した。狭帯域雑音は中心周波数を16音程に対応させ,帯域幅を400centsとした。このような狭帯域雑音は連続する5つの音名情報を含む。このように,絶対音感保持者であれば音名を特定できる音刺激として純音を,絶対音感保持者でも音名を特定するのが困難な音刺激として狭帯域雑音を使用した。
 参加者は,2種類の音刺激を聴いて感じる色をカラーパレットで選択する課題(色選択課題)を約1ヶ月の間隔をあけて2回行った。2回目の実験の際には,画面上に音名を提示した上で狭帯域雑音を聴き,感じる色を選択する課題(音名付き色選択課題)も行った。提示する音名は,帯域内の中心周波数に相当する音名(中条件),中条件より半音高い音名(高条件),中条件より半音低い音名(低条件)の3条件用意した。このようにして狭帯域雑音に対する認知音名を操作した。
結果 本実験では音刺激を聴いて色を選択する課題を一定期間あけて2回行ったが,その際選択された色のRGB値をCIE L*a*b*色空間上での値に変換し,選択された2色間の空間上でのユークリッド距離を色差と定義した。この色差が小さいほど色の類似度が高いことを意味する。
時間安定性 全く同じ音に対して,色選択課題の1回目と2回目で選択された色の色差を算出した。純音,狭帯域雑音ともに,非共感覚群に比べ,共感覚群の方が色差が有意に小さかった(F(1, 20)= 18.948, p < .001)。この結果は,共感覚群の色選択の時間安定性が非共感覚群に比べて有意に高く,本実験に参加した色聴共感覚者が,純音と狭帯域雑音に実際に色を感じていたことを裏付けている。
音名提示の影響の分析 全く同じ狭帯域雑音に対して,1回目の色選択課題で選択された色と,音名付き色選択課題の各条件で選択された色の色差を算出した。この色差は,狭帯域雑音に音名を提示すると,感じる色が音名を提示しなかった時からどのくらい変化するかを示している。絶対音感傾向群では共感覚群と非共感覚群で色差に有意差はみられなかった一方,非絶対音感傾向群ではすべての提示音名条件について,共感覚群の色差が非共感覚群に比べて有意に小さかった(低条件F(1, 80)= 6.715, p < .05, 中条件F(1, 80)= 9.517, p < .005, 高条件F(1, 80)= 11.693, p < .001)。
考察 音名提示の影響の分析について,絶対音感傾向群において共感覚群と非共感覚群の間に有意差がみられなかったことは,狭帯域雑音に音名を提示した時の共感覚群の励起色の時間安定性が非共感覚群と同程度に低いことを示している。これは,色聴共感覚者のうち絶対音感傾向の者は,複数の音名情報を含む音では全く同じ音でもその音名を認知すると異なる色を感じたということであり,色聴共感覚において共感覚色がトップダウンの認知処理を経て生起している可能性を示している。一方,非絶対音感傾向群において共感覚群と非共感覚群の間に有意差が確認されたことは,絶対音感傾向を持たない共感覚者は,全く同じ音であればその音の認知音名に関わらず同じ共感覚色を感じることを示している。絶対音感傾向を持たない共感覚者の励起色には,少なくとも音名の影響はなく,共感覚色に対するトップダウンの認知処理の影響は確認されなかったが,音の高さなど音名以外の音情報においてトップダウンの認知処理の影響がある可能性も考えられ,今後の検討が必要であろう。
引用文献[1] Ward, J., Huckstep, B., & Tsakanikos, E. (2006).  Cortex, 42, 264–280.
[2] Fujisaki, W. & Kashino, M. (2005). Perception &  Psychophysics, 57, 315-323.

キーワード
色聴共感覚/音名/狭帯域雑音


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