発表

2A-049

馴染みのある複数の物をイメージ上で操作する能力の構造と,性差との関係

[責任発表者] 森本 琢:1
1:北海道大学

目 的
 著者はこれまでに,心的イメージ容量に関わる能力の認知的構造を探るため,新たな視覚的イメージ容量課題(複数個のオブジェクトをイメージして保持)を複数作成し,そこで測定される個人差が,他の認知課題や質問紙で測定される個人差とどのような関係性があるのか,一連の検討を行ってきた。森本(2013, 2015, 2016)で用いた各視覚イメージ容量課題の成績は,空間操作に関連した課題(心的回転)や質問項目と関係が強く,長期記憶課題や視覚的イメージの主観的鮮明度評定(VVIQ)との関係は弱かった。次に,幾何学的パターンや空間配置を記憶する必要がなく,かつ,長期記憶痕跡に基づいて自由にイメージを想起するような課題で検討したところ(森本,2018),その成績は,空間操作関連能力に加えて,長期記憶関連能力との関係も示された。本研究では,森本(2018)の課題に対して,複数のオブジェクト(動物)を同時に操作させて,空間操作的要素やイメージ容量の負荷を増大させるような変更を加えた場合に,先に得られたような2つの能力との関係が維持されるのか検証する。加えて,各能力と性差との関係についても検討を行う。
方 法
実験参加者 大学の学部生281名が参加した(下記の計6つの課題のうち4つ以上の課題に参加した者を対象とした)。
手続き 得意な事柄に関する評定,人名記憶課題,VVIQ, MRT(心的回転)冊子版,位置イメージ容量課題,動物競争イメージ課題を5日に分けて集団で実施した。
 得意な事柄に関する評定 参加者は,人名の記憶,顔の記憶,道の記憶,空間操作,計算が速い,気配りができる,社交的である,責任感が強い,論理的であるという計9項目について,それが得意かどうか,またはそれが自分に当てはまるかどうかを7件法で評定した。
 人名記憶課題 参加者は,スクリーン上に1個ずつ提示される人名(日本人名10名,外国人名10名をブロック化して提示)を記憶し,5分間の遅延時間を挟んで,日本人名と外国人名を別々に自由再生した。
 位置イメージ容量課題 各試行では,まず,縦4(A〜Dと命名)×横4(1〜4と命名)のマトリックスがスクリーン上に提示された。参加者をそのマトリックスを参考にしながら,音声教示にしたがって,指定されたマトリックス上にドットをイメージしていき(4〜6個),その後提示されるテスト刺激とのマッチングを行った。
 動物競争イメージ課題 参加者は,「紫色の服を着たゾウ,赤色の服を着たパンダ,黄色の服を着たシマウマ,青色の服を着たコアラが,スタート位置につきました。スタートしました。パンダが一番に飛び出し,その後をシマウマ,ゾウ,コアラの順に続きます。コアラが速度を上げて,ゾウとシマウマを追い越しました。そのままゴールしました。」といった音声を聴きながら(動物4頭,もしくは,6頭による競争),その様子をイメージした。そして,音声の後,4頭による競争の場合は50秒間,6頭による競争の場合は65秒間の間に,第1位から最下位までの動物の,服の色と動物名を回答欄に記入した。なお,動物は10種類から,服の色は5色から選ばれた。こうした一連の流れを1試行とし,計10試行(練習2試行を含む)実施した。
結 果 と 考 察
 各課題で得られた指標データに対して,「空間操作関連能力」と「長期記憶関連能力」という2つの潜在変数を想定し,性差からそれらへの影響があるというモデルを仮定した(Fig.1)。共分散構造分析によってこのモデルの評価を行ったところ(欠損値については完全情報最尤法を適用),良好な適合度が得られた(CFI=.966, GFI=.997, AGFI=.993, RMSEA=.039)。「空間操作関連能力」からは,MRT,位置イメージ容量課題と動物競争イメージ課題の難易度が高い条件,といった観測変数に有意または有意傾向のパスが見られた。また,「長期記憶関連能力」からは,名前記憶得意,顔記憶得意,VVIQ(合計得点が低いほど鮮明),日本人名記憶,動物競争イメージ課題の難易度が低い条件,といった観測変数に有意なパスが見られた。「空間操作関連能力」と「長期記憶関連能力」との間には相関関係が見られ,性別のダミー変数から「空間操作関連能力」へは有意な負のパス(男性優位)が,「長期記憶関連能力」へは有意な正のパス(女性優位)が得られた。
 本研究やこれまでの一連の研究で得られた結果を踏まえると,視覚イメージには,少なくとも,空間操作関連能力と長期記憶関連能力という異なる2つの能力が関与している可能性が高い。そして,2つの能力が,想起するイメージに対してそれぞれどの程度関与しているかは,そのイメージにおいて空間操作や空間位置情報がどの程度重要か,イメージが長期記憶痕跡に基づいて自由に想起されたものか,イメージ課題の難易度(オブジェクト数),といった要素が複合的に絡み合って決まるようである。加えて,空間操作関連能力は男性優位,長期記憶関連能力は女性優位,といった対称的な特徴を持つ。

キーワード
視覚的イメージ/空間操作/長期記憶


詳細検索