発表

1D-049

楽器練習介入が高齢者の神経処理効率に及ぼす影響
- fMRIを用いた検討 -

[責任発表者] 郭 霞:1
[連名発表者・登壇者] 山下 雅俊:2, 鈴木 麻希:3, 大澤 智恵#:4, 浅野 孝平:2, 阿部 修士:2, 積山 薫:2
1:熊本大学, 2:京都大学, 3:大阪大学, 4:武庫川女子大学

目的
超高齢社会の日本では認知症患者の増加に伴い,いかに健康寿命を延ばすかが喫緊の課題となっている。その一つの方法として,認知機能低下予防及び向上を目指したマルチモーダル認知介入の検討が進められている。特に,近年の楽器介入研究では,楽器訓練により高齢者の認知機能を向上できる可能性が示唆されているが,その神経基盤は未だ明らかになっていない。そこで,本研究は4ヶ月の鍵盤ハーモニカ(ピアニカ)を用いた楽器訓練プログラムが高齢者の認知機能および脳活動 (fMRIにて計測)に与える効果を検討することを目的とした。

方法
【実験参加者】フォーマルな楽器訓練経験がなく地域で同好会活動を楽しむ高齢者66名を実験参加者として募集した(男性13名,平均年齢73.8歳,範囲61〜85歳)。除外基準により,楽器練習経験がある者,精神・神経疾患の既往がある者,WMS-R論理的記憶Ⅱの基準以下の者,医師により脳構造画像で病変が確認された者,ピアニカ教室出席率の2/3以下の者の計7名除外した。また,6名は研究期間に入院などで2回の検査を受けなかったため除外され,最終的に53名が解析対象者となった。
【手続き】参加者を楽器介入を行う実験群と介入を行わない統制群にランダムに分けて,介入前後にPre-testとPost-testを実施した。実験群への楽器介入は週 1 回 1 時間のピアニカ教室を16回実施した。介入内容には指の器用さと独立性の練習,楽典基礎の学習および楽曲の演奏を含んでいた。
【行動・fMRI検査】認知機能検査として,WMS-R論理的記憶検査 (LMI & II),語流暢性,数唱を,運動機能検査として,ペグボード検査を,感情面の検査として,WHO-5精神的健康状態表およびK6テストを実施した。また,fMRIによる脳機能の計測として,ワーキングメモリ(WM)を評価する顔のN-back task (0-back/1-back)を行い,介入効果の指標となる群(実験・統制)× 時期(Pre・Post)の交互作用が統計的に有意であるかどうかを調べた。統計的画像解析にはSPM12を使用し,1-back taskから0-back taskを差分したものを解析に用いた。

結果
行動成績に関して,群(実験群・統制群)×時期(介入前・介入後)を要因として,2要因の分散分析を行った。その結果,論理的記憶の遅延再生課題(WMS-R LMⅡ)において,時期の主効果 [F (1, 51) = 27.515, p < .001] 及び群×時期の交互作用 [F (1, 51) = 5.582, p = .022] が見られた。群の単純主効果は介入前において有意ではなく [F (1, 102) = 0.159, p = .951],介入後には有意傾向であった [F (1, 102) = 3.443, p = .066]。一方,時期の単純主効果は両群とも有意であった(実験群:[F (1, 51) = 28.942, p < .001];統制群:[F (1, 51) = 4.155, p = .047])。以上のように,介入後には,統制群よりも実験群の成績向上の効果が顕著であった(図1)。1-back課題に伴う脳活動において,右上頭頂小葉及び右前頭前野に群×時期の交互作用が見られ(図2A),介入により,実験群では,これら脳部位の脳活動が減少した(図2B)。一方,介入後に脳活動が増加した部位は見られなかった。

考察
Wada et al. (2017) の結果と同様に,本研究においても,ピアニカ訓練により,高齢者の論理的記憶遅延再生課題の改善が確認できた。また,楽器訓練により,演奏の習熟度の向上に伴い,神経活動の効率化が確認された。この結果は,同じWM課題を用いてfMRIで測定した運動介入の効果に関する研究 (Nishiguchi et al., 2015) と介入後の脳活動の減少という方向性で一致していた。また,ピアニカ介入後に同じ課題をより少ない脳活動でできるようになった結果は,Compensation-related use of neural circuits hypothesis (CRUNCH; Reuter-Lorenz & Cappell, 2008) という説とも矛盾しない。

*本研究は科学研究費(16H06325)の補助を受けた。

キーワード
楽器練習/神経処理効率/高齢者


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