発表

1D-044

地域在住超高齢者における同居家族と空間的視点取得能力の関連
SONIC研究

[責任発表者] 武藤 拓之:1,2
[連名発表者・登壇者] 権藤 恭之:3, 稲垣 宏樹:4, 増井 幸恵:4, 小川 まどか:4, 沼田 恵太郎:5, 小野口 航:6, 石岡 良子:7, 安元 佐織#:3, 蔡 羽淳:3, 松本 清明#:3
1:立命館大学, 2:日本学術振興会, 3:大阪大学, 4:東京都健康長寿医療センター研究所, 5:大阪成蹊短期大学, 6:早稲田大学, 7:慶應義塾大学

 空間的視点取得能力とは,自分とは異なる視点に立って物の位置関係を把握する空間認知能力のことである。空間的視点取得能力は共感特性 (Erle & Topolinski, 2015) や自閉症傾向 (Hamilton et al., 2009) などと関連があることが報告されている。また,特定の人物に対して空間的視点取得を行うと,その人物に対する同調傾向や信頼感が高まるという実験結果も報告されている (Erle et al., 2018; Erle & Topolinski, 2017)。これらの知見は空間的視点取得能力が社会的な能力や行動と結びついていることを示している。
 これまでの研究では,他者との日常的な社会的接触と空間的視点取得能力との関連についてはほとんど検証されてこなかった。特に,認知機能の低下が問題となり得る高齢者において,同居家族の存在が空間的視点取得能力の維持・改善に貢献する可能性を検証することは社会的にも意義があると考えられる。そこで本研究は,85歳以上の超高齢者において,同居家族と空間的視点取得能力との間に関連が見られるか否かの検証を試みた。本研究では同居家族の有無だけでなく,誰と同居しているかによって空間的視点取得能力に対する影響が異なる可能性についても探索的に検証した。また,その影響が空間的視点取得能力に特有の影響であるか否かを検証するために,より一般的な認知機能 (MoCA-J得点) に対する影響も検証した。
方 法
対象者 2017年度に東京都と兵庫県で行われたSONIC研究に参加した85─87歳の地域在住高齢者のうち,LMT (後述) を実施しなかった者,LMTの成績がチャンスレベル未満であった者,アンケートの回答に不備があった者を除く326名 (男性173名・女性153名) のデータを分析対象とした。
認知機能の測定 一般的な認知機能の指標としてMoCA-J得点を,空間的視点取得能力の指標としてラインマップテスト (LMT; 武藤・森川, 2018) の得点を使用した。LMTは,パソコンの画面上に提示された俯瞰図 (Fig. 1) の丸印を道に沿って進めて行く検査であり,進行方向に向かって次の曲がり角が左右どちらに曲がっているのかを素早く正確にキー押しすることで回答が行われた。1分間の正答数から誤答数を引いた数をLMT得点とした。
アンケート 現在同居している人について,「1. 一人暮らし」「2. 配偶者」「3. 父・母 (義父・義母)」「4. 子ども (嫁・婿)」「5. 孫 (孫の嫁・婿)」「6. その他」の中から当てはまるものを全て選択させた。なお,父・母 (義父・義母) と同居している対象者はいなかった。
データ分析 「一人暮らし」「配偶者と同居」「子どもと同居」「孫と同居」の4つの二値変数を説明変数とする回帰モデルにより,LMT得点とMoCA-J得点のそれぞれに対する各説明変数の寄与の大きさを男女別に検証した。LMT得点は正規分布に従わないため (武藤他, 2018),分析にはポアソン分布を仮定した一般化線形モデルを用いた。過分散を防ぐために,正規分布に従う切片変量効果として対象者の効果を投入した。また,パソコンへの慣れがLMT得点に与える影響を考慮するために,共変量としてパソコンやインターネットの日常的な利用の有無も投入した。MoCA-J得点の分析には重回帰モデルを使用した。
結 果
 LMT得点に対する各同居形態の寄与の大きさをFig. 2に示す。分析の結果,配偶者と同居している女性はそうでない女性よりもLMT得点が有意に高いことが確認された (p = .022)。それ以外の同居形態や男性においては有意な寄与は認められなかった (ps > .153)。また,MoCA-J得点に対しては同居形態の効果は男女ともに全く認められなかった (ps > .119)。
考 察
 本研究の結果から,女性においてのみ配偶者との同居が空間的視点取得能力の維持・改善に役立つ可能性が示唆された。結果の性差に関しては,女性の空間認知能力が男性よりも社会的な要因の影響を受けやすいという知見 (e.g., Tarampi et al., 2016) と整合している。同居者の有無というよりも,同居者が誰であるかということが重要であることが本研究から示された。また,この影響が一般的な認知機能ではなく空間的視点取得能力に特有であることも示された。因果関係を含む詳細な機序については今後更なる検証が必要である。

キーワード
空間認知/社会的認知/超高齢者


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