発表

1B-052

学習効率が向上しても熱環境は潜在的精神負荷を増大させる

[責任発表者] 木村 司:1
[連名発表者・登壇者] 武村 紀子#:2, 中島 悠太#:2, 小堀 寛和#:3, 長原 一#:2, 沼尾 正行#:1, 篠原 一光:4
1:大阪大学 産業科学研究所, 2:大阪大学 データビリティフロンティア機構, 3:ダイキン工業, 4:大阪大学

目 的 これまでの研究から,室内での身体的,精神的作業に対する室温の影響が報告されている。多くの研究では熱環境や冷環境での作業量の低下を報告しているが,作業パフォーマンスの時間的推移と室温との関連は不明瞭である。作業の背景には必要な情報を取り入れ,必要な際に取り出す学習が必要であり,このパフォーマンスは時間的推移とともに変動する可能性がある。本研究では,室温が作業パフォーマンスの時間的推移とそれに伴う生理的,主観的指標に与える影響を検討した。
方 法実験参加者 実験参加者は大学生24名 (女性11名,男性13名; 年齢範囲: 20-24歳) であった。
学習刺激 新書やウェブニュースから1セット1600-1800文字の文章を抽出し,60セットを学習刺激として用いた。
記憶刺激 各学習刺激内で出現頻度,共起数がともに高い単語を3単語 (キーワード),低い単語を 3単語 (非キーワード),文章中に存在しない単語を6単語 (新奇ワード) 抽出し,記憶刺激として用いた。
生理指標測定 脳波 (EEG) は頭皮上8箇所から記録した。基準電極と接地電極はそれぞれ左右一方の耳朶に設置した。サンプリング周波数は500 Hzとし直流増幅で収録した。心電図 (ECG) は第2誘導で記録した。皮膚コンダクタンス水準 (SCL) は左手の第2指と第3指腹側部から記録した。鼓膜温は右耳から記録した。ECG,SCL,鼓膜温のサンプリング周波数は500 Hzとし,ECGは0.53-30 Hz,SCLは0-15 Hzの帯域周波数フィルタを適用した。
手続き 実験は2日に分けて行った。実験室の室温は18,22 ,25,29℃のいずれかとなるよう設定した。実験は前安静,主観評定,学習課題 (記憶),学習課題 (再生) から構成された。前安静では参加者にディスプレイ上の固視点を120秒間注視するよう求めた。前安静後,主観評定への回答を求め,以後,学習課題が3試行終わるごとに主観評定への回答を求めた。学習課題 (記憶) では,学習刺激1セットを読み,その内容を記憶するよう指示した。学習課題 (再生) では,呈示された記憶刺激が学習刺激中に出現していたか否かを選択させた。これを1試行の学習課題とし,学習課題15試行を1セッションとした。1セッション終了後,参加者を室温24℃の別室にて約30分間休憩させ,その間に実験室の室温を変更した。休憩後,1セッション目と同様に2セッション目を実施した。2日目は同様の手続きで3,4セッション目を行った。
分析 学習課題では1試行ごとに学習刺激の読み時間,記憶刺激への回答時間,正答率を求めた。EEGでは瞬き成分の除去後,θ帯域の分析のため4-7 Hzの帯域周波数フィルタを適用した。この電圧値を二乗し自然対数変換を行うことでパワー値を算出した。分析対象は前頭部電極 (F3,F4) とした。ECGの分析はR波を検出し,R-R間隔からHRとLF/HFを算出した。SCL,鼓膜温は測定値を用いた。これらのデータは各学習課題 (記憶,再生) の期間で平均化し,学習課題3試行を1ブロックとして5ブロックの系列データを算出した。各指標に対し,室温 (4)×ブロック (5) の2要因参加者内分散分析を行った。
結 果 学習刺激の読み時間と記憶刺激の回答時間でブロックの主効果がみられ (学習刺激: F (4, 92) = 21.07, p < .001; 記憶刺激: F (4, 92) = 8.28, p < .001),どちらもブロック5で時間が短縮した (ps < .05)。記憶刺激の正答率ではどの効果もみられず,実験を通して70%以上の正答率が維持された。EEGでは,学習刺激呈示時に電極F3でブロックの主効果がみられ (F (4, 92) = 5.73, p = .006),ブロック1に比べブロック2と4でパワー値が低下した (ps < .05)。HRでは,学習刺激,記憶刺激呈示時で室温の主効果がみられ (学習刺激: F (3, 69) = 12.55, p < .001; 記憶刺激: F (3, 69) = 12.93, p < .001),どちらも18℃に比べそれ以上の室温でHRが増加した (ps < .05)。LF/HFでは,学習刺激呈示時に交互作用がみられ (F (12, 276) = 2.39, p < .05),ブロック2,4,5では18,22℃に比べ25,29℃でLF/HFが増加した。また,25,29℃ではブロック1に比べブロック2,5でLF/HFが増加した (ps < .05)。記憶刺激呈示時は,ブロックの主効果がみられ (F (4, 92) = 3.10, p < .05),ブロック1に比べブロック3以降でLF/HFが増加した (ps < .05)。SCLでは,学習刺激,記憶刺激呈示時で交互作用がみられ (学習刺激: F (12, 276) = 4.75, p = .003; 記憶刺激: F (12, 276) = 3.85, p = .007),どちらもブロック3から5では18℃に比べ25,29℃でSCLが増加した。また,25,29℃ではブロック2に比べブロック4でSCLが増加した (ps < .05)。鼓膜温では,学習刺激,記憶刺激呈示時で室温の主効果がみられ (学習刺激: F (3, 69) = 38.26, p < .001; 記憶刺激: F (3, 69) = 38.79, p < .001),どちらも18℃で鼓膜温が最も低く,29℃で最も高かった (ps < .05)。
考 察 学習課題では,課題への正答率は維持されたまま時間的な学習効率の向上がみられた。また,EEGのθ帯域では課題終盤で集中の低下がみられた。学習課題の結果から学習効率は向上しているため,この集中の低下は課題序盤の過度な集中を抑制した結果だと考えられる。一方,熱環境(25,29℃)では課題終盤でHR,LF/HF,SCLが増加した。鼓膜温の経時的上昇はみられなかったため,これは熱環境での体温上昇による心臓血管系の働きに加え,課題による精神負荷が増大した結果だと考えられる。以上のことから,学習効率が向上している状況でさえ熱環境は潜在的な精神負荷を増大させることが示され,作業成果に加えて精神負荷を考慮する学習環境づくりの必要性が示された。

キーワード
温熱環境/学習効率/精神負荷


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