発表

1B-047

言霊の効果があると信じられやすい状況
余計なことを口にしてしまったから失敗したんだ

[責任発表者] 向居 暁:1
1:県立広島大学

目的
 言霊は,「言葉に宿っている不思議な霊威」と定義され,古代,その力が働いて言葉通りの事象がもたらされると信じられていた(広辞苑第六版, 2008)。すなわち,声に出した言葉が現実の事象に対して何らかの影響を与えることができると信じられていることで,良い言葉を発すると良いことが,逆に不吉な言葉を発すると凶事が起こるとされる。現代の日本社会においても,このような言霊信奉は根強く,結婚式で「割れる」や「切れる」,受験生に対して「すべる」や「落ちる」を使ってはいけないとされていること,つまり,忌み言葉という形でその慣習は残り,また,「引き寄せの法則」などと名を変え,長年信奉されている。このような言霊信奉は一般的には非科学的であるが,予言の自己成就の生起過程や発言内容へのコミットメントの高まりなどの心理的要因を考慮すると完全に非合理的だとも言い切れない。例えば,受験生による「自分は試験に失敗するかもしれない」という発言は,自己像を定義づけ(受験に失敗する人間),そして,その自己像に基づく行為の選択(勉強をサボる)により,さらに自己像が規定されるという自己言及的な循環が生起した結果,実際に受験に失敗する可能性が高まると説明できる(正村, 1985)。
 村上(2016)は,このような背景から,言霊に関する態度と行為について調査を行った。その結果,予測を口にすることが結果に影響すると信じられていることがわかり,言霊信奉の根強さが明らかになった。さらに,ポジティブな内容の状況の方がネガティブな内容よりも言霊の効果があると捉えられていることがわかり,言霊の影響は状況によって異なって認知されうることが明らかになった。しかしながら,上述した言霊信奉に関わる「心理的要因」の多くは,自分自身の発言を自分で成し遂げる際により有効に作用するものであり,発言と結果の関係性がおかれた状況によっては,その効果の認知は異なると考えられる。
 したがって,本研究は,どのような状況において,発言が結果に影響する,すなわち,言霊の影響が大きいと判断しやすくなるのかを仮想場面を用いた質問紙調査によって検討することを目的とした。
方法
 調査対象者 大学生300名(男性51名,女性249名)であり,平均年齢19.57歳(SD =1.24)であった。
 手続き 本研究では,私たちの日常生活において遭遇し,発言が結果に影響したと判断しそうな状況(場面)と言霊信奉に関する項目を提示した。これらの状況(場面)は,「自分の発言が自分に影響する状況(試験場面)」,「自分の発言が相手に影響する状況(恋人場面)」,「他人の発言が他人に影響する状況(遭遇場面)」,「他人の発言が自分に影響する状況(天候場面)」の4種類で,それぞれに対してポジティブな結果とネガティブな結果が作成された。調査対象者には,1場面につきポジティブかネガティブかどちらかの結果が提示され,また,ポジティブ,および,ネガティブな結果それぞれ2つずつの場面に対する回答が求められた。これらの場面の組み合わせは被験者間でカウンターバランスされた。言霊信奉に関する項目は,「結果は,発言によるものだ」と「発言がなければ,結果は違っていた」)の2項目であった(「1:全くそう思わない」~「6:非常にそう思う」の6件法)。これらの項目は他の質問項目(場面のもっともらしさを測定する2項目)などと一緒に提示された。
結果
 まず,すべての場面は調査対象者によって,「もっともらしい場面」であることが概ね確かめられた(M=4.69~5.24)。それぞれの場面ごとに言霊信奉得点を分析した結果(Welchの検定),試験場面(自分→自分状況)では合格の場合(M=3.01, SD=0.87)と不合格の場合(M=3.36, SD=1.23)で差が認められ(t(274.95)=-2.85),ネガティブな結果の方が言霊信奉得点が高くなった。また,天候場面(他人→自分状況)では,晴天の場合(M=2.11, SD=0.90)と雨天の場合(M=1.85, SD=0.81)で差が認められ(t(296.97)=2.67),ポジティブな結果の方が言霊信奉得点が高くなった。恋人場面(自分→他人)の恋人と仲直りする場合(M=2.21, SD=0.92)と別れる場合(M=2.31, SD=1.20),また,遭遇場面(他人→他人)の会いたい人に会える場合(M=2.19, SD=0.94)と会いたくない人に会ってしまう場合(M=2.19, SD=0.93)においては,言霊信奉得点に差は認められなかった。
考察
 本研究の結果から,結果が自分に関わる状況においてのみ,発言や結果のポジティブさ(ネガティブさ)が,発言が結果に影響するという認知に影響することがわかった。すなわち,状況によって言霊の影響の判断が異なることが明らかになった。また,自分の発言が自分に影響する場合にネガティブな結果の方が言霊信奉得点が高くなったのは,このような状況において予期的後悔が生じやすいからだと推測される(村上, 2017)。つまり,私たちは「余計なことを言ってしまったから自分は失敗した」と判断しやすいのだろう。今後は,状況における言霊信奉の程度に関与する要因や個人差変数についても検討する必要があるだろう。
引用文献
 村上幸史(2016). 言霊に関する態度と行為 -不確実事象に関する予測の観点から- 社心第57回大会論文集, 315.
 村上幸史(2017). 言霊に関する態度と行為(2) -不確実事象に関する予測の観点から- 日心第81回大会論文集, 58.
謝辞
 本研究は,著者の指導により行われた宇畑碧香さんの卒論(2017年度・県立広島大学人間文化学部)のデータを再分析,加筆・修正したものである。ここに記して感謝の意を表す。

キーワード
言霊/因果帰納/ポジティブさ


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