発表

1A-048

課題目標の切替が運転中のヴィジランス低下に及ぼす影響

[責任発表者] 紀ノ定 保礼:1
1:静岡理工科大学

 Adaptive Cruise Control(以下,ACC)を利用することで,ドライバーは頻繁に速度を制御する作業から解放されるため,運転における精神的負担が軽減される。しかしACCの誤作動や限界に対処するために,ドライバーは他車両などの交通環境を監視し続けなければならない。また,ドライバーはハンドル操作からは解放されていないため,自身の走行位置に対する監視も必要となる。このような監視の継続,すなわち持続的注意の成績は,時間とともに低下することが知られている(ヴィジランス低下)。本研究では,ACCを利用した長時間運転の途中に,異なる視覚的な持続的注意課題を一時的に挿入して課題目標を切り替えることが,ドライバーのヴィジランス低下に及ぼす影響を検証した。
方法参加者 日常的に自動車を運転している日本人の成人33名。ただしうち3名は事前に定めた参加基準を満たしていなかった。
装置と手続き 実験条件(継続/切替)を参加者内要因として操作した。いずれの条件でも,参加者はドライビング・シミュレータ(三咲デザイン合同会社 DS-nano-)を用いて,3車線の直線道路の中央車線を,約51分間運転した。
 参加者の車両の前方には,常に先行車両が1台存在した。参加者の車両及び先行車両の速度は一定であった。また参加者の車両のACC機能により,車間距離は一定であった。参加者はハンドルのみを操作して,中央車線上の走行を維持した。
 走行開始から1分後,4秒に1台のペースで,7種類の車両のいずれかがランダムに,左右いずれかの車線に出現した。その車両は400msecだけランプ(うち90%は赤色のブレーキランプ,10%はオレンジ色の方向指示器)を点灯させながら,参加者の車両を追い越していった。
 運転期間は事前に4分割されており(ピリオド0,1,2,3),ピリオド2のみ約5分間,他のピリオドは約15分間であった。継続条件では,参加者は全ピリオドにおいて,方向指示器が点灯した場合のみ,ハンドルに装着されたボタンを早く正確に押して反応した。切替条件では,参加者はピリオド0,1,3においてのみ同様の課題を遂行した。切替条件のピリオド2では,ランプの点灯と同期して,画面上部に速度標識を模したアイコンが出現した(うち90%は赤い輪郭,10%はオレンジ色の輪郭)。参加者は左右の車両は無視して,オレンジ色の輪郭の標識が出現した場合のみ,ボタンを早く正確に押して反応した。継続条件と切替条件の順番は参加者間でカウンターバランス化し,条件間には1時間の休憩を設けた。
結果分析の方針 6名の参加者のデータは,教示の誤解や実験中の妨害の発生,不適切な反応の多さにより除外し,残りの24人のデータを分析に使用した(平均33.79歳,女性16名)。
 全ての分析において,R version 3.5.1(R Core Team, 2018)とbrmsパッケージ version 2.7.0(Bürkner, 2018)を用いてモデルのパラメータをベイズ推定した。全ての事前分布はbrmsパッケージのデフォルトの設定を採用した。長さ15000のチェインを4本走らせ,いずれのチェインでも後半の半数の乱数を推定に使用した。説明変数は実験条件(継続,切替),ピリオド(1,3),及びこれらの交互作用であった。いずれの説明変数においても,それぞれ-0.5と0.5で水準をダミーコード化した。
Miss数 方向指示器が点灯した際に,一度もMissすることがなかった参加者が多かった。そこで,各ピリオド内のMiss数がゼロ過剰ポアソン分布に従うと仮定し,切片と各回帰係数に参加者間変動を仮定した線形混合モデルを実行した。全ての回帰係数の95%確信区間は0を含んでいた。
反応時間 Hit試行の反応時間がex-gaussian分布に従うと仮定し,切片と各回帰係数に参加者間変動と追い越し車両の車種による変動を仮定した線形混合モデルを実行した。全ての回帰係数の95%確信区間は0を含んでいた。
逸脱距離 他車両のランプが点灯した時点における,中央車線の中心と走行位置間の距離(m)を記録した。逸脱距離が下限0の切断正規分布に従うと仮定し,切片と各回帰係数に参加者間変動を仮定した線形混合モデルを実行した。ピリオドの主効果は,回帰係数の95%確信区間が0を含んでおらず(事後平均0.050[0.016: 0.085]),ピリオド1から3にかけて逸脱距離が増加した。実験条件の主効果(事後平均-0.027[-0.080: 0.025])や交互作用(事後平均-0.030[-0.121: 0.060])の回帰係数は,95%確信区間が0を含んでいた。
考察 本実験では,他車両に対するヴィジランス低下は認められなかった。他車両に対するヴィジランス低下の生起しやすさは,イベントが発生するペースや,空間的な不確実性の程度によって変動する(Greenlee et al., 2018)。MissやFalse Alarmの生起率が低かったため,本実験の環境では,ブレーキランプと方向指示器の弁別が容易だったことが関係していると考えられる。
 一方,自身の走行位置に対する持続的注意は,ピリオド1から3にかけて低下し,ヴィジランス低下が確認された。すなわちACC機能が搭載された車両を運転していても,長時間運転に伴いドライバーの精神的負担は上昇した。ただし,平均的な逸脱距離の増加は5cm程度と小さかった。
 長時間運転の途中に一時的に課題目標を切り替えても,ヴィジランス低下は抑制できなかった。課題目標の一時的な切替がヴィジランス低下に及ぼす影響は,先行研究間でも知見が安定しておらず,今後さらなる検証が必要である。
引用文献Greenlee et al. (2018). Driver Vigilance in Automated Vehicles. Human Factors, 61(3), 474-487.
※本研究は静岡理工科大学平成30年度提案型教育研究費の助成を得て実施した

キーワード
運転/注意/目標の切替


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