発表

3D-038

高機能自閉スペクトラム症者の時間分解能と多感覚統合

[責任発表者] 川上 澄香:1
[連名発表者・登壇者] 魚野 翔太:1, 大塚 貞男:1, 義村 さや香#:1, 趙 朔:1, 十一 元三#:1
1:京都大学

 目的
 他者の顔(視覚)と声(聴覚)に関する情報など,複数の感覚モダリティの情報を統合することは効率的に社会的情報を処理する際に役立つ。社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の障害を中核症状とする自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; ASD)をもつ者は,社会的情報処理において多感覚情報を有効利用できていないことが指摘されている(e.g., Pierceら, 1997)。加えて,統合すべきか否かの判断基準の一つになると考えられる,複数の情報が時間的に近いタイミングで存在したかどうかの判断についても定型発達(Typically Developing; TD)者と異なるのではないかといわれている。そこで本研究ではASDの中核症状の背景にある基礎的な情報処理の特徴ついての手掛かりを得るため,ASD者の多感覚統合および時間分解能との関係性について検討した。

 方法
 ASD者21名,TD者21名を対象に,以下の課題を用いて感覚情報の時間分解能と多感覚統合の起こりやすさを評価した。
 視聴覚刺激の順序判断課題:フラッシュ(光)とビープ音(音)をタイミングをずらして呈示し,参加者には音の呈示順序が光より先か後かを判断するよう求めた。光と音の順序が正確に判断できない時間差を個人ごとに算出するために,呈示タイミングの時間差に関する各条件(光呈示±30‐350msの18条件)の正答率から個人ごとに曲線推定をおこなった。寄与率0.8以下の9名のデータを除外し,ASD者15名(男性9名; 平均年齢: 28.13±7.16歳; 平均IQ: 112.33±9.53),TD者18名(男性11名; 平均年齢: 29.00±10.39歳; 平均IQ: 113.89±13.38)のデータを解析した。
 視聴覚統合課題:1回の光と複数回の音を一緒に呈示すると複数回の光が知覚される聴覚誘導性フラッシュ錯視現象を利用し,視聴覚統合の起こりやすさを評価した。光のみ1回条件,光のみ2回条件,音のみ1回条件,音のみ2回条件,光・音ともに2回条件,光1回・音2回条件の6種類をランダムに実施し,参加者には光を知覚した回数を回答するよう求めた。光1回・音2回条件における錯覚の生起頻度を指標として用いた。

 結果
 性別,年齢,FIQ,VIQは両群間に有意差はみられなかったが,PIQについてはASD群では平均102.67±10.77であったのに対しTD群では平均112.06±12.25と高かった(t[31] = -2.314, p = .027)。先行研究と同様に,ASD群においても時間分解能が高いほど聴覚誘導性フラッシュ錯視が起こりにくいことが示された(r = 0.648, p = .009)。聴覚誘導性フラッシュ錯視の起こりやすさについて,グループ間で有意差のあったPIQを共変量として共分散分析をおこなった結果,グループの主効果(F [1, 30] = 7.018, p = .013)が認められ,TD群と比べてASD群の方が錯覚が起こりにくいことが示された。時間順序の判断課題についても同様の分析をおこなったが,グループ間に有意差は認められなかった。

 考察
 本研究では,ASD者の多感覚統合と時間分解能との関連性が確認され,時間分解能が高いほど多感覚統合が起こりにくいという仮説が支持された。これは,一般集団を対象とし,ASD傾向が高いほど時間分解能が高く視聴覚統合が起こりにくいと報告した先行研究(Kawakamiら, 2018)と一致する。また,TD者と比べてASD者は多感覚統合が起こりにくいという結果が得られた。このことは,社会的情報を効率的に処理するために多感覚情報を有効活用することがASD者では難しいことと関連しているかもしれない。一方で,時間分解能に群間差はみられなかった。視聴覚情報に対する時間分解能は中年期にかけて高くなり,以降加齢とともに低くなるという報告(Stevensonら, 2018)があり,参加者の広い年齢幅が影響し,本研究では群間差を検出できなかった可能性がある。感覚情報の時間分解能と多感覚情報の統合能力の関係性について,それぞれの発達に及ぼす相互的影響を含めて明らかにするためには,縦断的な検討が求められる。

キーワード
自閉スペクトラム症/時間分解能/多感覚統合


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