発表

3C-047

エビングハウス錯視による数知覚の変調

[責任発表者] 高尾 沙希:1
[連名発表者・登壇者] 渡邊 克巳:1,2
1:早稲田大学, 2:ニューサウスウェールズ大学

背景・目的
私たち人間は大きさや形など, 物体の特徴を瞬時に捉える能力を備えている。これらの視覚特徴は独立に視覚情報処理していると考えられていたが, 最近の研究では, 共通のメカニズムによって処理されているという主張がなされている。Walsh(2003)のマグニチュード理論では, 時間・空間・数の知覚において, これらは共通のメカニズムが存在していると提唱している(空間と数:Dehaene et al., 1998, 時間と数:Casini & Macar, 1997, 時間と空間:De Long, 1981)。例えば, 奇数偶数を判断させる課題において, 大きな値の数が右側に, 小さな値の数が左側にある時に, 反応時間が速くなるといわれている。これはSNARC(the spatial-numerical association of response code)効果と呼ばれ, 空間と数の知覚において内在的な関連があることを説明している(Dehaene et al., 1993)。また, 数の処理において反応する脳部位が, 大きさを判断する課題においても, 活動しているという研究もある(e.g, Harvey et al., 2015)。そこで本研究では, 小さな円に囲まれた円は大きな円に囲まれた円よりも大きく知覚されるという, 同時対比効果の現象で知られるエビングハウス錯視を用い(Ebbinghaus, 1902), 円の代わりにいくつかのドットを提示することで, 数知覚と大きさ知覚の関係性を明らかにすることを目的とした。もしあらゆる数量知覚が共通して処理されているのであれば, エビングハウス錯視において中心の円の知覚に変調をもたらす周辺の円は, 大きさだけでなく数の知覚においても影響を及ぼす可能性がある。
方法
15名の大学生が実験に参加した。実験参加者がスペースキーを押すと, 最初に画面の中心に注視点が500ms提示された。次に, 注視点の左右に二つのエビングハウス錯視の周辺の円が600ms秒提示された。周辺の円の大きさは, 大きな円と小さな円で構成された実験条件と, 後に提示する中心の円の大きさと同じ大きさの円で構成された統制条件で操作された。周辺の円が提示されて200ms後, 周辺の円の中心にいくつかのドットが200ms提示された。提示されたドットの数は2, 4, 6, 8, 10, 12個の中で, 左右の周辺の円に対して独立に操作された。実験参加者の課題は, 左右どちらの領域がより多い数のドットを含んでいるか, キー押しによって回答することであった。全ての条件は試行ごとにランダムに操作された。
結果・考察
全ての実験参加者について, 統制条件において左右に同じ数のドットが提示された条件を除き正答率を算出したところ, 平均90.67±9.52%であった。また, 各実験参加者の小さい円に囲まれたドットが大きい円に囲まれたドットよりも多いと判断された割合について, ロジスティック関数を用いたフィッティングを行い, 主観的等価点(PSE: Point of Subjective Equality)を求めた。比較刺激となるドットの数とPSEの差分を算出し, 比較刺激となるドットの数と同様に知覚されるために必要なドットの数を計算した(PSEシフト)。つまり, PSEシフトが正の値になる場合には, 小さい円に囲まれたドットは大きい円に囲まれたドットよりも多いと知覚されたことを示す。2名の実験参加者がPSEシフトの値において, 平均±2SDよりも外れた値を示していたため, 外れ値として以降の解析から除外した。PSEシフトの値について, 0とのt検定を行ったところ, 全てのドットの数条件において, 有意に正の方向にシフトしていることがわかった [ts < 4.00, ps < .05]。加えて, 一要因参加者内分散分析を実施したところ, 比較刺激となるドットの数によって, PSEシフトの大きさの有意な差は見られなかった [F(5, 60) = 0.18, p = .97]。上記の結果から, 小さな円に囲まれたドットは大きな円に囲まれたドットのよりも有意に数が多いと知覚されていることがわかった。つまり, これまでの大きさにおけるエビングハウス錯視の効果と同様に, 周辺の円の大きさの操作によって, それに囲まれた数の知覚にも影響を与えることが示唆された。このために, 本研究はWalsh(2003)が提唱したマグニチュード理論を支持する結果となった。
引用文献
Casini, L., & Macar, F. (1997). Effects of attention manipulation on judgments of duration and of intensity in the visual modality. Memory & Cognition, 25(6), 812-818.
De Long, A. J. (1981). Phenomenological space-time: towards an experiential relativity. Science, 213, 681-683.
Dehaene, S., Bossini, S., & Giraux, P. (1993). The mental representation of parity and number magnitude. Journal of Experimental Psychology: General, 122(3), 371.
Dehaene, S., Dehaene-Lambertz, G., & Cohen, L. (1998). Abstract representations of numbers in the animal and human brain. Trends in Neurosciences, 21(8), 355-361.
Ebbinghaus, H. (1902). The principles of psychology. Veit, Leipzig.
Harvey, B. M., Fracasso, A., Petridou, N., & Dumoulin, S. O. (2015). Topographic representations of object size and relationships with numerosity reveal generalized quantity processing in human parietal cortex. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(44), 13525-13530.
Walsh, V. (2003). A theory of magnitude: common cortical 436 metrics of time, space and quantity. Trends in Cognitive Sciences, 7, 483-488.

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