発表

2D-040

拍構造が聴覚と運動の同期に与える効果と音楽経験の影響

[責任発表者] 小野 健太郎:1
[連名発表者・登壇者] 橋本 淳也:2, 平本 亮介:2, 笹岡 貴史:1
1:広島大学脳・こころ・感性科学研究センター, 2:広島大学

背景と目的
  感覚と運動の同期に関する研究では,一定のリズムで提示される感覚刺激に合わせてタッピングをするという同期タッピング課題がよく用いられる。このとき,タッピングが刺激提示の時間よりも早くなる傾向(NMA:Negative Mean Asynchrony)が知られているが,その理由はまだ不明である。時間知覚の研究からは,A_A_…のように空白を挟んで刺激Aが繰り返される音列よりも,空白の代わりに刺激Bが間に入るABAB…という音列の方が,刺激Aの提示間隔を長く感じるという充実時程錯覚が知られている(神宮, 1982)。Repp(2008)ではこの錯覚を元にタッピングすべき音列Aの間に異なる音Bを挿入してABBABB…という音列にしたところ,NMAのばらつきが小さくなった。これは,音Bを挿入したことで充実時程錯覚が生じて,音Aの提示間隔を短く知覚しにくくなったためと解釈された。
しかしこの研究では音楽経験者のみが対象であり,また形成された三拍子の音列ABBのうち,タッピングすべき音は強拍(A)だけであった。先行研究からはリズムパターンにおける拍構造が刺激知覚に与える影響が報告されており(Trost et al., 2014),刺激の処理における強拍の優位性が示されているが,Repp (2008) の結果もこれが影響した可能性がある。そこで本研究では,三拍子パターンの強拍と弱拍それぞれを対象とした同期タッピング課題を行い,拍構造が同期タッピングに与える効果と音楽経験の影響を検討した。

方法
  被験者は音楽経験者10人(経験6年以上)と非経験者10人。統制音列CとしてC5(523Hz, 100ms)の音を2種類のSOA(900ms, 1200ms)のどちらかで15回繰り返し提示する音列と,この音列をもとに,C5の間にE5(659Hz, 100ms)とG5(784Hz, 100ms)を挿入して三拍子の構造(C5-E5-G5)を作り,これを15回繰り返し提示するパターン音列を作成した。パターン音列はどの音をタッピング対象とするかで3種類(A1, A2, A3)に分け,統制音列(C)と合わせて4種類×2種類のSOAの刺激音列を作成した。音列の種類とタッピングの対象音については試行の直前に被験者に提示され,被験者はイヤホンから聞こえる音にタイミングを合わせて右手人差し指でタッピングを行った。分析では,各音列での刺激提示とタッピングとの時間差の平均と標準偏差を求め,音楽経験と音列の種類,SOAによる3要因の分散分析を行った。

結果
  時間差の平均値については,分散分析による統計的な違いは見られなかった。標準偏差については,SOAと音列の種類による主効果(F1,18 = 5.77, p = 0.027; F3,54 = 8.10, p < 0.001)が見られた。また,音楽経験と音列の種類の交互作用が見られ(F3,54 = 5.33, p = 0.003),単純主効果の検定からは音楽経験の有無によらず音列の種類による影響が見られた(経験者:F3,27 = 4.79, p = 0.008; 非経験者:F3,27 = 15.64, p < 0.001)。そこで,経験者と非経験者それぞれで音列の種類による多重比較を行ったところ,音楽経験者ではパターン音列の3種類(A1, A2, A3)すべてで統制音列Cとの間に有意差が見られた(A1 vs. C: t9 = 5.32, p = 0.003; A2 vs. C: t9 = 4.02, p = 0.009; A3 vs. C: t9 = 3.77, p = 0.013)。一方で非経験者では,A1のみに統制音列との間で有意差が見られた(t9 = 6.74, p < 0.001)(図1)。

考察
  拍構造の導入によって音楽経験者は一様に同期のばらつきが減った一方で,非経験者ではその効果が三拍子の一拍目にしか見られず,強拍の優位性が強く見られる結果となった。先行研究からは,音楽経験によって音列を分析的に聴く傾向が見られるという報告があり(Burton et al., 1989),音楽経験者は個々の音に注意を向けることができた一方,非経験者は音列の拍構造に影響を受けた聴き方をしたために,同期タッピングに違いが生じた可能性が示唆される。

参考文献
Repp, BH. (2008). Music Perception, 26, 19-39.
神宮英夫. (1982). The Japanese Journal of Psychology, 53, 296-299.
Trost, W., Fruhholz, S., Schon, D., Labbe, C., Pichon, S., Grandjean, D., Vuilleumier, P. (2014). Neuroimage, 103, 55-64.
Burton, A., Morton, N., Abbess, S. (1989). British Journal of Psychology, 80, 169-180.

キーワード
同期タッピング/拍子/音楽経験


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