発表

2C-030

開眼手術後における顔写真の個人識別

[責任発表者] 望月 登志子:1
[連名発表者・登壇者] 鳥居 修晃:2
1:日本女子大学, 2:東京大学

<目 的> 
手術後間もない時期から顔を見てその人の識別ができたという先天盲開眼者の記録は見当たらず,体型,服の色,声などが手掛かりとされている(Senden,1932).我々は先天盲開眼者KTの協力を得て,既知の成人2人の実物顔による識別,未知顔の写真による識別等を検討してきた(望月,1983,1993,1996;望月・鳥居,1987;鳥居・望月,2000).その過程でKTは「顔には関心があるが,人の顔を見分けるのはとても難しい」と頻繁に報告した.最初に識別可能になったのはKT自身の顔であり,自分の写真を多種類見る機会を経て「自分の顔の特徴はなんとなく分かりかけてきた」,「この顔は見覚えがある」と変化した.このことから,写真は異なっていても,同じ人物とみなして,誰であるかを特定可能になることが個人識別への道筋であると予想し,今回は,顔識別を可能にする顔情報含有率をモーフイング画像を用いて検討した.
<実験参加者>
先天盲開眼者:KT(66歳).眼疾患:先天性白内障. 術前の保有視覚:明暗弁別以上,詳細は不明.手術:水晶体摘出(右眼は2,3歳頃,左眼は15歳と20歳).実験開始時(術後10年目)の保有視覚:光覚,色覚,簡単な平面図形の形態覚.眼科的所見:右眼は眼球癆,角膜帯状変性,視力ゼロ,左眼は先天白内障手術後の無水晶症,視力0.01程度.
<刺激画像>
被写体:22乃至23歳の日本女性3名(以下A,B,C).いずれもKTにとって未知の人物.原画像:頭頂近くから顎までの正面顔カラー写真(縦10cm,横8cm).表情:中立顔と笑顔.各画像セットの構成:被写体2名の同一表情画像を10%から90%まで10%刻みで混合したモーフイング画像(以下,MF画像)9種と原画像(100%)2枚の計11枚から成る.中立顔と笑顔に各3セット(AB,AC,BC)が用意された.
<実験方法>
例えばABセットの場合,まず実験者がAとBの原画像をそれぞれ「Aさん」,「Bさん」と命名して手渡す.両画像を十分に見比べた後に,1枚ずつランダムに渡される原画像およびMF画像を見て,その人がAとBいずれであるかを判断(指名)することを課題とした. MF画像では,含有率(%)の高い方の人物と判断した場合を正反応(指名)とみなした.
<結 果>
1.含有率と正反応率
情報含有率が70%以上であれば80%以上の識別精度を示し得るが,被写体と表情による差異も認められる.中立顔で分かり易いのは「Bさん」(Fig.1)で,笑顔で分かり易いのは「Cさん」である(Fig.2).一方,3人の正反応率が50%を越える最低含有率は,中立顔では60%だが笑顔では70%であるので,人物識別には中立顔の方が笑顔よりもやや有利と言える.
2.識別すべき人数と正反応率
識別すべき人数による影響は,画像を1セット(AB,AC,BCのいずれか1種)ずつ提示する条件と3セットを混ぜて同時に提示する条件で検討された(Fig.3).MF画像はいずれも2人の顔情報から構成されており,用いた画像は同一であるが,同時に識別すべき人が2人(1セット)から3人(3セット)に増えると,含有率70%以上の画像でも,識別難度は上昇する.
3.前髪の調整と正反応率
前髪の特徴による影響は,3被写体で大差ないよう調整した画像と非調整画像の間で検討された.原画像での差は認められないが,MF画像では90%から70%の高含有率の場合であっても,前髪の特徴を希薄にすると識別精度は低下する.
<要 約>
開眼者KTが最初に識別可能となったのは自分の顔であり,多種類見た自分の写真から,自己顔の個性を把握・記憶したことが識別を促す1要因になったと想定された.今回の実験では,記憶した原画の顔情報を70%以上含有すれば,未知の人であっても2名の識別は可能になるが,被写体,表情,識別すべき人数によって難易度は異なることが見出された.

キーワード
個人識別/顔写真/先天盲開眼者


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