発表

2A-046

観察者による自己の顔表情操作が感情生起に与える影響

[責任発表者] 大橋 佳奈:1
[連名発表者・登壇者] 吉田 成朗#:2, 金谷 英俊:1, 佐藤 隆夫:1
1:立命館大学, 2:東京大学

 背 景
 表情筋を動かして表情を生成した場合とPCで表情を自動生成した場合の感情状態変化の比較実験では,自ら表情筋を動かした場合に,よりポジティブな感情状態となった(大橋他, 2018)。この自己の顔表情操作の結果は,自分の行動を制御して自分自身が外部の事象の変化を起こしたという感覚,Sense of Agency(以下,SoA)(e.g., Haggard & Chambon, 2012)と関連しているのではないか。手や顔を撫でる場所やタイミングが一致している場合に,ラバーハンド錯覚やEnfacement錯覚の強さが強くなり,SoAを強く感じるという,低次の時空間的要因とSoAとの間に正の相関がみられることが報告されている(Panagiotopoulou et al., 2017; Shibuya et al., 2018)。その一方で,ポジティブな結果をもたらす行動に対してSoAが生起されやすい等(Takahata et al., 2012; Yoshie et al., 2013),感情という高次の要因とSoAとの間に何らかの関係が存在する可能性を指摘することができよう。本研究では,大橋他(2018)における,自らの表情を操作して変化させるという実験操作を「自発性」と呼び,この自発性の有無が感情体験に及ぼす効果について検討を行った。刺激のモダリティを視覚情報に固定し,ディスプレイ上に提示された参加者の顔映像に対し,映像内の参加者自身の表情変形を観察することから生じる感情状態の変化の比較を試みた。
 方 法
■参加者:立命館大学大学生および大学院生43名(男性11名,女性32名,平均年齢20.93歳,SD±1.86)が参加した。このうち,実験目的に気が付いた1名,装置の不具合でデータが取得できなかった1名,成人版表情認知検査(小松他, 2008)で外れ値となった5名の,計7名を分析から除外した。分析対象36名のうち,喜び顔群19名,悲しみ顔群17名であった。
■刺激:吉田他(2015)で開発された表情変形システムを改変したものを用いて,参加者の正面に設置したカメラで撮影した参加者の顔映像を,参加者自身に対して提示した。この表情変形システムとは,Webカメラで参加者の上半身を撮影し,PCディスプレイ上に表示した映像から人間の顔を検出し,検出された顔の口や目を喜び顔,もしくは悲しみ顔表情にリアルタイムで変形させるものである。喜び顔変形時は口の両端と頬を上げ,目を少し大きく変形した。悲しみ顔変形時は眉頭を上げて眉尾を下げ,口の両端を下げた。自動変形の場合は表情変形開始から終了までは1.5秒間とした。どの条件でも刺激の提示時間は表情変形開始から30秒間とした。
■手続き:撮影した参加者の無表情顔映像に対して,参加者自身が入力装置を操作することによって自身の顔の表情を喜び顔もしくは悲しみ顔へ変化させる自発的変形条件と,参加者の表情が自動的に変形する自動的変形条件,表情が無表情のまま変化しない統制条件の3つの実験条件を設定した。実験では参加者に表情が付加された自身の顔映像を観察させ,その直後に生起した感情の強さを質問紙PANAS(川人他, 2011; Watson et al., 1988)を用いて測定した。表情変形観察時は,参加者に観察終了まで無表情を保つように教示した。全工程終了後に成人版表情認知検査を行った。
 結 果
 本実験で得られたPANAS得点に対して3要因分散分析を行った結果,悲しみ顔群において統制条件と比較して表情を変形させた2条件(自発的 / 自動的)でPANASのネガティブ得点が高くなった(ps < .0001)(Figure 1.)。これは,悲しみ顔というネガティブ表情を観察した場合,ネガティブ感情の程度が高くなったことを示す。一方,喜び顔ではこの傾向は認められなかった。また,どちらの表情においても自発的変形条件と自動的変形条件間の得点の差は確認されなかった。
 考 察
 本実験の結果から,視覚的悲しみ顔表情変形の提示によってネガティブ感情が生じた一方で,視覚的喜び顔表情変形の提示では感情状態の変化は見られなかった。これに関して,自分の喜び顔は写真や動画等によって日常的な経験頻度が高いが,悲しみ顔は日常的経験頻度が低いためではないかと考えた。日常的経験頻度の違いから表情に対する新鮮さが変化し,感情状態の変化に影響した可能性がある。また,表情を用いた感情表出誇張についての研究でも,ネガティブ表情誇張時はネガティブ感情が増大し,ポジティブ表情誇張時は変化しないという,本研究と同様の現象が知られている(野口・吉川, 2009)。本研究で行った無表情に対する表情付加が表情誇張に相当していたとすると,日常的経験頻度の差による表情の非対称性が本研究の結果に影響したと考えられる。
 また,自発性の有無による感情状態の差は見られなかった。これは表情変形入力装置を動かす距離が小さく,「自分で操作した」という自己操作感が足りなかったため,充分な自発性を生起させていなかったという手続き上の問題があった可能性が考えられる。そこで,今後は自己操作感をより高めた実験手法を用いて検討する必要がある。

キーワード
表情/感情/自発性


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