発表

1D-041

ADHD児童における表情認知の神経基盤?近赤外分光法による検討

[責任発表者] 小林 恵:1
[連名発表者・登壇者] 池田 尚広#:2, 徳田 竜也#:3, 長嶋 雅子#:2, 門田 行史#:2,4, 金沢 創:5, 山口 真美:3, 作田 亮一#:6, 山形 崇倫#:2, 檀 一平太:2
1:愛知県医療療育総合センター発達障害研究所, 2:自治医科大学, 3:中央大学, 4:国際医療福祉大学, 5:日本女子大学, 6:獨協医科大学

【目的】
注意欠如多動症(attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD)では,笑顔は定型発達児と同等の正確さで同定できる一方,怒り顔は同定が困難であることが知られている(Pelc et al., 2006など)。脳機能研究でもADHD児の表情刺激観察中に非定型な脳活動が報告されており,定型発達児では笑顔・怒り顔の両方で右半球の側頭領域が活動する一方,ADHD児では笑顔観察時に右半球側頭領域が活動するが怒り顔では活動が上昇しない(Ichikawa et all, 2014)。しかし,ADHDの表情認知障害の神経基盤は未だ明らかでない。
 本研究では,笑顔と怒り顔観察時におけるADHD児の側頭領域の脳血流反応の変化を機能的近赤外分光法(fNIRS)によって計測した。計測では,塩酸メチルフェニデート(MPH)およびプラセボの服薬前後での笑顔・怒り顔観察時の脳血流反応を計測し,MPH服薬後に有意な脳活動変化が生じる領域を検討した。MPHはドパミンなどの神経伝達物質の再取り込みを阻害することでシナプス間情報伝達を高める働きがあるとされ,脳皮質での情報処理やGo/NoGo課題などのパフォーマンスを改善することが知られている(Monden et al., 2012など)。ADHD児の怒り顔の同定成績がMPHによって改善すること(Williams et al., 2008)を踏まえると,表情認知に関与する上側頭溝(STS)や下側頭回(IOG)の活動がMPHの服薬によって上昇すると予測される。

【方法】
被験者:ADHD児19名(平均9.84歳,年齢8-12歳,女児1名)が参加した。いずれもDSM-5の診断基準に基づいて診断され,IQ70以上で右利きであった。
刺激・手続き:テスト試行は笑顔条件と怒り顔条件の2条件で,それぞれ日本人女性が表出した笑顔または怒り顔を10秒間提示した。各テスト試行前には,ベースラインとして注視点が画面中央に20秒間以上提示された。各表情刺激に対する脳活動は6試行ずつ計測し,テスト試行の提示順序は被験者間でカウンターバランスが取られた。これらの刺激提示は先行研究(Ichikawa et al., 2014)と同じであった。
 MPHとプラセボを使用した二重盲検ランダム化比較試験で,MPHまたはプラセボ服薬前後の側頭領域の脳活動(左右各22チャンネル)を光トポグラフィ装置(日立メディコ社製)によって計測された。

【結果および考察】
 各チャンネルにおけるoxy-Hb濃度(mMmm)の平均値を,MPH・プラセボ服薬前後で算出し,Meff補正法(Uga et al., 2015)を用いた両側t検定によってベースラインとの比較を行った(figure 1, 2)。その結果,笑顔観察時には右半球の下後頭回の複数のチャンネルで,oxy-Hb濃度が服薬の有無に関わらず有意に上昇することが示された(p < 0.05)。一方,怒り顔観察時にはMPH服薬後のみ,左半球の下後頭回に対応するチャンネルのoxy-Hb濃度が有意に上昇することが示された(左ch. 18: M = 0.05, t(18) = 3.24, p < 0.05)。
 さらに表情認知の半球優位性を検討するため,先行研究(Ichikawa et al., 2014)と同様の手続きでテスト試行における各計測チャンネルの酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度変化をZ値変換しデータ分析を行った。Ichikawaらの計測部位に相当する左右各半球12チャンネルのoxy-Hbの平均Z値についてベースライン0との両側t検定を行った結果,笑顔観察時には右半球側頭領域の活動が有意に上昇する一方(右半球:M = 1.21, t(18) = 3.09, p < 0.01, 左半球:M = -0.17, t(18) = -0.38, n.s.),怒り顔観察時には両半球で有意な活動は認められなかった(右半球:M = 1.23, t(18) = 1.66, n.s., 左半球:M = -0.98, t(18) = -1.21, n.s)。この結果は,本研究と同じ刺激・刺激提示手続きを用いた先行研究(Ichikawa et al., 2014)の結果を再現するものであった。
 本研究の結果は,(1)ADHD児童における笑顔の処理は定型発達児と同様に右半球優位であるが,下後頭回での顔の形態的情報の処理に依存すること,(2)ADHD児童は怒り顔処理に障害がありMPHによって改善するが,MPHは怒り顔の形態的情報の処理を促進することを示唆するものである。

キーワード
表情認知/ADHD/近赤外分光法


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