発表

1D-040

自己運動速度による身体近傍空間への影響

[責任発表者] 黒田 尚輝:1
[連名発表者・登壇者] 寺本 渉:2
1:熊本大学, 2:熊本大学

 背景
身体のすぐ近くの空間(身体近傍空間,PPS)は,ヒトが外部環境に働きかける上で重要な空間である.視触覚バイモーダルニュ ロンの特性を利用し(Rizzolatti et al.,1981;Làdavas et al.,1998;Duhamel et al.,1998),従来から視覚接近刺激と同時に呈示された触覚刺激への反応促進を調べることでPPSの境界が定義されてきた(Cléry & Hamed,2018).近年では自己運動知覚時にはPPSの自己運動方向への拡大が確認されている(Noel et al.,2015;雨宮他,2016).しかし,自己運動速度がPPSへ与える影響は明らかではない.そこで,本研究では,安全性が高く,統制も取りやすい視覚的自己運動感覚(ベクション)をヘッドマウントディスプレイ(HMD)に呈示し,その影響について調べることを目的とした.

 方法
参加者:大学生・大学院生24名(うち女性12名,24.0±3.5(SD)歳)が実験に参加した.すべての参加者は,健常な視力・触覚を有した.本研究は熊本大学大学院社会文化科学研究科倫理委員会の承認を得て,参加者からは書面によるインフォームドコンセントを得た.
装置と刺激:視覚刺激はHMD上に呈示した.床に前方向へのベクションが生起する誘導刺激(11.8m(横)×21m(縦)),床から0.7mの高さに視覚接近刺激(紫色の球体,直径0.02m,接近速度0.6m/s)を呈示した.VR空間での参加者の位置をFig.1に示す.
手続き:自己運動速度には,低速条件(1.5m/s),高速条件(6.0m/s),統制条件を設けた.自己運動条件(低速条件,高速条件)では常に誘導刺激を呈示した.統制条件では,相対運動を考慮して,視覚接近刺激呈示中(1s)のみその軌道上の僅かな範囲に誘導刺激を呈示した(ベクション非生起).条件ごとにブロック化し,自己運動知覚中(または統制条件呈示中)に様々な奥行き距離(1.3m,1.95m,2.6m,3.25m,3.9m)から視覚接近刺激を呈示し,その出現後に様々なタイミング(0.2s,0.4s,0.6s, 0.8s)で胸部に触覚刺激を呈示した(T条件).また,視覚接近刺激に注意が向くようにその色が緑色に変化するもの(V条件),予測を防ぐために視覚接近刺激の色変化も触覚刺激もない試行を含めた(catch).また,触覚刺激のみの条件を設けた( Baseline).1ブロック120試行(5距離×(V:4,T:12,Baseline :4,catch:4))をランダムな順序で実施した.自己運動条件では自己運動知覚の確認を各試行の前に行った.参加者には視覚接近刺激を見続けさせ,その色の変化や触覚刺激を検出し次第,できるだけ早く反応させた.1ブロック終了する毎にベクションの強さと速さをそれぞれ口頭で0-100(0(ベクション非生起), 1:弱い・遅い,100:強い・速い)で評価させた.
分析:分析にはT条件及びBaselineのみを使用した.刺激の呈示時間が長くなると予測により反応が早くなることを考慮し, Baselineは0.8sの平均のみを使用した(cf. Noel et al., 2015).
 結果
平均±2SDで3名の参加者を除外した.結果をFig.2に示す. Fig.2では負の方向は視覚刺激による触覚刺激の検出の促進を意味し,縦棒はPPSの境界を表す.各条件からBaselineを引き算し,各条件のその値と0(Baseline)をt検定し,有意な差がみられた距離までをPPSと定義した.その結果,統制条件では最も近い距離のみ有意差があり,自己運動条件ではすべての距離に有意差があった.また,2要因分散分析(自己運動速度×距離)の結果,自己運動速度及び距離の主効果が有意であった(自己運動速度:F(2,32)=7.77,p=.002;距離:F(2,32)=13.22,p<.001).交互作用は有意ではなかった(F(8,128)=1.53,p=.152).自己運動速度の主効果における多重比較の結果(ライアン法),統制条件よりも自己運動条件の方が有意に反応の促進があった.

 考察
本研究はPPSへの自己運動速度の影響を検討した.自己運動知覚時にはPPSの拡大が示唆されたが,自己運動速度の影響は確認できなかった.このことには,相対運動の影響や,自己運動知覚時には本研究で調べた範囲外にPPSが拡大していた可能性が考えられる.また,バーチャル空間での検討だったため,実運動をシミュレートした検討が必要になる.したがって,今後はこれらの影響を統制し,エアロバイク等も使用して実運動によるPPSへ影響も検討していく.

キーワード
視触覚相互作用/自己運動知覚/バーチャルリアリティ


詳細検索