発表

1B-043

拡張現実装置に対する観察方法の違いが虚像の奥行き感に及ぼす影響

[責任発表者] 中嶋 豊:1
[連名発表者・登壇者] 竹本 雅憲#:1
1:成蹊大学

目 的
HoloLens(Microsoft)に代表される拡張現実装置(Augmented Reality system: AR装置)では,提示映像(虚像)が現実世界と重畳され,虚像が実際に存在するように知覚される.ただし,装置での設定値通りのサイズ,奥行き位置にヒトが虚像を知覚しているかどうかは議論の余地がある.先行研究(中嶋ら,2018)では,AR装置に提示される虚像を単眼もしくは両眼で観察すると,いずれの観察方法もサイズ,奥行き量が過大評価される傾向を示した.また,単眼観察でも非観察眼を遮蔽すると,各過大評価量が減少する傾向が見られた.一方,先行研究では,虚像の知覚の評価に実物の立方体との比較による調整法を用いており,この実物が「正解」と判断されることでバイアスを与えていた可能性を否定できない.本研究では,虚像のみを提示した状態において,恒常法を用いてAR装置における虚像の奥行き知覚特性について検討した.また非観察眼を遮蔽した場合における奥行き知覚の詳細についても合わせて検討した.
方 法
実験参加者・実験環境・実験装置 成人5名(男性3名,女性2名,平均年齢±標準偏差:21.8±0.4歳)が実験に参加した.実験装置としてHoloLens(Microsoft),PCを使用した.
実験方法 実験参加者は着席し,HoloLensにより提示された虚像が基準点(着席位置の前に配置した台の端より60 cm)に設置された立壁よりも手前に知覚されるか,奥に知覚されるかを恒常法,二肢強制選択により回答し「奥反応率」を求めた.虚像の提示条件として,単眼のみに提示する単眼観察と両眼に提示する両眼観察(以上を非遮蔽条件とする)を設定した.合わせて非観察眼の視野を遮蔽する条件(遮蔽条件:右眼観察・左眼観察)も設定した.実験では,提示眼条件2(単眼・両眼)×提示位置12点(基準点から-10,-8,-6,-4,-3,-2,-1,0,1,2,4,8 cm)×繰り返し5回を1ブロックとし,これをランダムな順序で4ブロック行なった.その後,同様に遮蔽条件を右眼・左眼それぞれ2ブロックずつ行い,合計8ブロックを行なった.
結 果 と 考 察
実験参加者ごとに,虚像を提示した各位置において,虚像が基準点よりも奥に知覚された割合(奥反応率)を集計した.その平均値を図1に示す.また,各参加者のデータに対する累積正規分布によるフィッティングを行ない,奥反応率0.5となる推定提示位置(分布平均)とグラフの傾き(分布SD)を算出した.
推定提示位置は,単眼観察,遮蔽条件(左右眼観察の平均)では基準点よりも手前の位置で奥反応率が0.5を超えたが(それぞれ参加者平均±SD: 55.4±4.7 cm,58.5±1.5 cm),両眼観察ではそれらよりも基準点に近い位置で奥反応率が0.5となった(参加者平均60.7±0.2 cm).この結果は,単眼観察では,奥行き量が過大評価されることを示した先行研究の結果と一致した(中嶋ら,2018).ただし,それぞれの観察条件と基準点との差に関してt検定を行った結果では,両眼観察にのみ有意な差が見られた(t(4) = 5.57, p = .01),単眼観察,遮蔽平均条件には有意差は見られなかった(t(4) = 1.96, p = .12; t(4) = 2.05, p = .11).さらに,観察条件による違いについて,参加者内一要因分散分析を行った結果にも有意な差は見られなかった(F (2, 8) = 3.97, p = .06).ここでグラフの傾きに着目すると(図1),単眼観察,遮蔽平均条件,両眼観察の順に傾きが大きくなる傾向が見られる.各参加者の結果をフィッティングした結果から求めたグラフの傾きについて,参加者内一要因分散分析を行った結果,観察条件の主効果に有意差が見られ(F (2, 8) = 8.27, p = .01),Bonferroni法による多重比較の結果,両眼観察と単眼観察,両眼観察と遮蔽平均条件の間に有意差が見られた(ps. < .05, Bonferroni corrected).
これらの結果は,AR装置において虚像を観察すると,参照物体の有無に関わらず奥行き量の過大評価が生じる可能性を示している.また両眼観察において,他の観察と比較して奥行き判断の感度が高いことを示唆する.先行研究(中嶋ら,2018)では,非虚像提示眼を遮蔽することにより,両眼観察に成績が近づく傾向が示されていたが,今回の結果により,奥行き知覚の感度上昇がその要因ではない可能性が示された.
引用文献
中嶋豊・菊地雄大・佐藤俊治(2018),拡張現実映像に対する奥行き知覚特性,日本心理学会第82回大会発表論文集
謝辞
本研究は富士フイルム株式会社からの支援により実施した.

キーワード
両眼立体視/単眼立体視/拡張現実


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